在宅ケアと地域連携健保連海外医療保障 No.1346在宅入院は、かかりつけ医(médecin traitant)または病院の担当医により実施が要請され、患者および/または家族の同意を必要とする。在宅入院のケアチームは、看護師、看護助手、理学療法士などが含まれ、在宅入院の医師の責任の下でケアを行う。在宅入院には、患者の安全とケアの調整を行うために、遠隔通信システムが備えられており、24時間365日、患者や家族と連絡がとれる体制を保障している。在宅入院の実施はケアの性質や健康状態の変化に応じて期間が定められており、在宅入院の医師がケアは必要ではあるが、病院でのケアは必要ではないと判断する場合には、開業看護師が実施する在宅看護サービスに移行することもある。なお、在宅入院の費用は、加入している公的医療保険によりカバーされる。在宅入院の患者は、在宅であるにもかかわらず、在宅入院の施設長が在宅での入院を認めることになるため、従来の入院設備を有する病院に入院する患者と同様に、入院患者の法的地位が認められ、医療施設の入院患者と同じ権利があることになる。しかし、入院に関する諸規定は病院を中心としており、患者宅という入院施設とは異なる場所での入院に関する規定は体系的には整備されていないといった側面もある21)。在宅入院は、在宅看護サービスや多目的在宅援助・ケアサービスとは区別されており、最近までは同時に受けることはできなかったが、2018年より共同で同一の患者に介入することができるようになった22)。また、在宅入院は全国医療保険金庫が提供する、退院後の在宅復帰支援を行うPRADOとも異なる23)。医療・福祉セクター間には、歴史的にいくつかの構造的な境界線が形成されてきた24)。第一に、福祉セクターと医療セクターの運営主体をめぐる境界である。第二に、医療セクターに特有のものであるが、外来開業医と入院病院の境界である。第三に、医師、看護師、看護助手、理学療法士、臨床心理士など医療・福祉セクターに登場する各専門家の多様性と業務の専門化が、提供されるサービスやケアの複雑さに拍車を掛けている。さらに、医療・福祉セクター内には、高齢者の自律の喪失と障害者の障害をめぐる境界もみられる。このような各セクター間の境界線を乗り越えるために、調整・連携の取組みは古くから行われていた。とりわけ医療・保健・福祉の各セクター間の地域における連携の試みは、ラロック報告によって、早くも1960年代には登場していたとされる25)。その後も1980年代から1990年代にかけて、実験的にサービスやサービス提供施設を調整・連携する試みがいくつか行われている26)。2000年代に入ると、ケアマネジメントを導入した個別化自律手当(APA)の創設の一環として、地域情報連携センター(CLIC)や医療福祉チーム(équipe médico-sociale)が導入された。これらは、高齢者とその周囲の人への一元的な情報提供、多職種によるアセスメントの組織化、医療福祉チームを通じた在宅サービスでの専門職間の介入の調整などを行うものであった。2010年代に入ると、調整・連携の試みは促進され、多種多様な連携の仕組みが生み出された。例えば、60歳以上の自律の喪失状態の高齢者(MAIA)、75歳以上の自律の喪失のリスクのある高齢者(PAERPA)、一般市民(PTA、DAC)、予防(PAERPA)、専門家への支援と開業医・病院間の連携(PTA、PAERPA、DAC)など、その目的と対象は類似しているが、完全に同じというわけではない27)。また、これらの連携の仕組みが存在しない地域もあり、連携のあり方について地域差があることや、各地域の連携の仕組みの成熟度が異なっていることが指摘されている28)。高齢者が利用できる行政手続きやサービスはⅣ. 地域連携をめぐる取組み1. 地域連携をめぐる取組みの変遷2. 多種多様な地域連携の取組み(1)地域情報連携センター(CLIC)
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