70図5 デンマークのNPM(新型公共管理)モデル源となることは明らかである。こうした十分な財源によって、デンマークのコムーネ統括のケアプログラムが可能となっているのである。一方、日本においては、市税などの予算の半分に満たない程度が自由に使える財源で、さらに高齢者分野に使える予算はわずかという自治体が少なくない。その中で、求めざるを得ないのは、国からの補助金獲得である。神野ほか(2017)は、「補助金を獲得して補助事業を実施する際、事業費の全額が補助されることは例外的であり、地方自治体も負担しなければならない。一般にそれを補助裏、ないしは裏負担と呼んでいる。この裏負担があるため、財政力の乏しい地方自治体は、補助事業を実施したくともできないことがある」と指摘している。そのため、非営利組織であるNPO、市民の活動の促進へと走ることになる。地域包括ケアシステムは、高齢化が進む社会の中で、さらに地域共生社会へと対象を広げながらも、同時に国民総参加の態勢を取ろうとしている。しかしそこでは、もっと中心として差配していく役割を担わなければならないはずの地方自治体に権限が足りないのである。しかし、日本ではとかく、公共事業は費用の垂れ流しにつながる、とし、かつ新自由主義の考えがいまだ社会に根付く中で、少子高齢化が進む背景をもとに、小さな政府と大きな市場で社会を統制しようとしてきた。自治体がもっていたさまざまな事業を、指定管理者制度などで民間委託をしてきた。しかし、従来の外郭団体が特命で指名されたり、経営効率を考慮して民間からの応募がない事業もうまれるなどの問題が出てきた。それに対し、大住(2003:95)は、デンマークを含む北欧は、業績/成果による 統制を核とした行政内部のマネジメント改革 とアドホック(あるいは分散・分権)的改革でNPM(新型公共管理)を推進してきた、と指摘している。小池(2017)は、デンマークのNPMのモデルを、「公共政策の決定が代表制議会にゆだね出所:小池(2017)を参照し作成られ、行政機関がそれを執行するという通常の代表制民主主義モデルとは異なり、一つの事象に市民や関連団体、地域関連組織、政治家、専門家などが水平的なネットワークを形成し、公共討議や協議を経て政策作成と決定を行うモデル」としている。具体的な特徴として、①分権的制度運営、②利用者参加、③上位目標と枠組運営―を挙げている。まさに地方分権された自治体の中で、さらなる分権が市民や関連団体などに行われ、そこに利用者民主主義が実践されている。自治体は目標を定め、大きな枠組みの運営に徹している。まるで、日本で国が自治体に対して行っているガバナンスを、デンマークでは自治体が市民や関連団体などに行っているのである。つまり、行政が中心でありながらも、効率的な運営は可能であり、公共部門が広がることは管理次第でまったく悪いわけではない。近年は、介護保険制度のように「公共サービスを競争にさらすことで非効率を排除して生産性を高めるという新自由主義的な手法が公共サービスの様々な現場に広がっている」(金谷 2022:2)。日本では小泉政権のころからそうした手法が登場してきた。もちろん競争を否定はしないが、福祉サービスにおいて過度の競争は、非効率性の排除という弊害につながり、かつ公共サービスは非効率であり、減少させていく方向性が生じる危険性がある。その危険性を従来型管理詳細な規制・計画政府枠組み・目標管理NPM共治
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