健保連海外医療保障_No.134_2024年9月
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69健保連海外医療保障 No.134ている利用者に自由に選択できる証明書を提供し、援助の実施に関して登録された企業と自ら契約を結ぶ裁量を与える」としている。入念なことに、第92条第1項では、「コムーネ議会と契約を結んだ身体介護や生活援助を行う民間受託事業者の倒産時に、どのように対処するかの指針を伴った書面の緊急時対応策を作成しなければならない」と倒産の場面まで想定して規定されている。基本はコムーネが責任を持ってサービスを供給しているため、たとえばオーデンセ・コムーネにある高齢者センターは30か所あるうち民間は6か所にとどまり、ほとんどがコムーネによる運営である。たとえば、汲田(野口編 2013)は、デンマーク中南部に位置するスヴェンボー・コムーネの高齢者ケアについて、在宅生活を支える多機関が連携・協働する「協力モデル」が展開されているとしている。この取り組みは2005年から本格化した。このモデルのきっかけは、認知症ケアであった。認知症ケアには医療における治療をはじめ、さまざまな方面からのアプローチがあるが、それらが個別で動いていれば、ひとつの試みがうまくいっても、折角の成功を持続させることはできない。そこで、「市民の暮らしを守る自治体担当者、家庭医、認知症の診断を行うクリニックの医師と認知症専門看護師、在宅福祉サービスの担い手であるヘルパー、作業療法士」という専門家を連携させる取り組みが「協力モデル」であった。デンマークでも、医療の連携以外の多機関連携は当時として初めての試みで、「認知症」の包括的ケアをするための専門職の連携と協働のシステムである。「協力モデル」の作成は現在、法律で各自治体に義務付けられ、全国で標準化されているという。そのうえで、在宅が難しくなった場合の施設ケアも整えられている。これには、高齢者住宅法によって、誰もが最低でも自分の年金額で入居できる住宅を提供され、かつ、切れ目がない福祉サービスを保障する社会サービス法が根底にある。その中で、医療についてはレギオーン、在宅医療や福祉についてはコムーネが担って いる。中田(2015)は、デンマークのリュンビュー・トーベック・コムーネとトナー・コムーネを比較し、高齢者ケアシステムにおいて「必要な施策は講じられている」「地域差が日本ほど大きくない」とし、地域差が大きくない理由として「平らで高低差がなくパンケーキ型とも評される地形や、農業国といわれるほど農業が主要産業として現在も存在できていること」が関係しているのではないかと指摘している。汲田が言う「協力モデル」の普及もこうしてより容易に進んだとも考えられる。デンマークは、市税が自治体予算のおよそ70%を占め、補助金も入れれば95%以上が、コムーネが自由に使える財源である。日本の自治体は、市税収入が占める割合は予算に対して25%ぐらいであり、地方交付税を入れても、5割に満たない程度しか自由に使える財源はない。自由に使えるという予算のすべてが、実際に全くのフリーハンドということではないが、自治体がなにかをやろうとするときの実行力の3. 地方分権による統括した ケアプログラム自治体に法的なケア提供の責任を大きく負わせることによって、自治体はケアが必要な市民へ確実に提供される仕組みを作らなければならない。そこで、これまで述べてきたコムーネが “統括責任者”として、公共サービスとしてケアが提供されるケアプログラムが整えられるようになった。4. 自治体主導の根拠となる財源や 運営方法ネットワークを強化していくのに、財源問題は避けては通れない。法的な責任や義務を課しても、自治体にそれらを実行する能力がなければ、まさに絵に描いた餅である。その実行能力を担保するうえでもっとも大切なのが、財源である。

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