健保連海外医療保障_No.134_2024年9月
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68これには出てこない自治体では、特に地方の 自治体において、それぞれの要素である病院や介護施設などの社会資源の確保が難しく、とはいえ財政状況が苦しい自治体もあるため、直営で社会資源を創造する力は持っていないことが多い。社会資源はかろうじてあったとしても、地域によってはすべての要素の間に十分な連携が取れていないところも多い。地域における連携のばらつきが出てくるひとつの理由として、自治体の持つ権限が決して強くないことがある。1990年の老人福祉法の改正により、老人保健福祉計画の策定が全国の市町村、都道府県に義務付けられ、市町村が高齢者への保健福祉サービスへの計画的な提供体制の整備に責任を持つことになった(現在はこの計画は、老人福祉法による老人福祉計画と介護保険法による介護保険事業計画に受け継がれる)。しかしながら、「提供体制の整備」とは、自治体が直営で地域を統括していく、ということではなく、民間事業者を主体としながら、提供サービスを整備していくということを意味した。民間事業者とは基本的に利益を追求するものであり、利があるところに群がる民間事業者といった奔馬を飼いならそうとするようなものである。民間事業者の活動を制約していくことは容易ではない。たとえば、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)の経営母体は、社会福祉法人が95.1%とほとんどを占めている(厚生労働省 2022)。これは特別養護老人ホームが社会福祉法で定める第1種社会福祉事業に該当し、原則として行政か社会福祉法人が経営主体となることが定められているからであり、行政が直営で行うことは新自由主義に基づいた小さな自治体指向による行政改革によって、減少していく傾向にある。一方で、第2種社会福祉事業である居宅サービスにおける訪問介護の経営主体は、営利法人(会社)が70.3%と最も多く、社会福祉法人は15.7%に過ぎない。もっとも、さまざまな法的制約を受ける社会福祉法人だが、民間事業者であることに変わりはなく、倒産もする。そのため、行政にとっては、民間事業者においても温度差こそあれ、補助金や行政指導という影響力によって事業者の動きを管理していくことしかできない。こうした行政の力が弱い背景には、日本の法律では、具体的にかつ簡潔に責任や義務が明示されていないということがある。たとえば、社会福祉法では、施策や措置を国や地方公共団体が講じると定めているが、では、それぞれがどう具体的に行うのかは定められていない。老人福祉法では、高齢者へのサービスを市町村が担うように書かれているが、介護保険制度によるサービスは介護保険法で定められており、あくまで市町村がサービスの供給主体であるとの明示はない。介護保険法にいたっては、都道府県は適切な助言や援助を行い、市町村は施策の有機的な連携を図りつつ包括的に推進するよう努めなければならない、と一見努力義務にまでみえるような弱い表現である。日本では、大きな枠を決めた法律に続いて、より細かく決めた法、施行令や施行規則などで詰めていく。しかし、上位法ともいえる社会福祉法や老人福祉法などがこうしたあいまいさでは、自治体の責務をより強くすることはないだろう。一方で、デンマークの社会サービス法では第3条に「コムーネ議会はこの法によるサービスに関する決定を行う」とし、第4条で「コムーネ議会はこの法律に従い、必要なサービスを供給できるようにしなくてはならない」と明示されている。まさに、コムーネは決定主体であり、かつ実践主体でもある。日本の自治体の権限とは大きな違いであり、日本で地方自治がなかなか進まず、地域包括ケアも地域ごとにバラバラで壁にぶつかる自治体が多い一因がここからもうかがえる。デンマークにおいては、高齢者ケアシステムを実施していくうえでの中心的役割、実行体ともいえる存在は、コムーネである。それが社会サービス法でしっかりと定められている。基本は公共サービスであるが、民間事業者の介在を否定していない。社会サービス法第91条第2項2号では、「コムーネ議会は、援助に認定され

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