健保連海外医療保障_No.134_2024年9月
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66高齢者から公選で委員が選ばれる高齢者委員会の設置が義務化されている。コムーネの高齢者施策は、常に高齢者委員会に諮られることになっている。また、高齢になり、年金生活を送る中で、ボランティアとして主体的に地域活動を行う者は多い。こうしたボランティア団体による地域活動は、公的サービスでは補えない介護予防や生活支援などで大きな役割を担っている。内閣府が実施した「平成28年度高齢者の経済・ 生活環境に関する調査」では、日本で社会的活動(貢献活動)をしている60歳以上の人は、2016年で30.1%に過ぎない。世代すべてをふくめた、経済協力開発機構(OECD)諸国におけるボランティア活動者率でも、2000年で日本は16%に過ぎないのに対し、同じOECD加盟国のデンマークでは33%と、日本の倍以上となっている(OECD 2005)。小池(2017)は、デンマークのボランティア部門の「社会福祉活動」について「主として公共セクターを補完」していると分析する。高齢者については、「高齢期の人生を受け身ではなく主体的に選び取っていく人々の姿、そして自らによって自らを支えようとする仕組み」(朝野ほか2005:124)があるとされる。こうした高齢者ボランティアを高齢者自身が各地域で組織している団体が「エルドア・セイエン」である。全国団体であり、各自治体に支部が存在し、日本の地域包括ケアシステムにおける介護予防や生活支援に類した活動を行っている(銭本2019)。船曳(2003)は、日本社会を「西欧型の社会に対して主体的に関わっている自立した個人というのであれば、日本はそうした個人によって成り立っている社会ではない」と指摘している。「主体的」とは「自分の意志・判断に基づいて行動するさま」(大辞泉:1995)とされる。日本社会では、主体的な個人に価値が置かれるデンマーク社会とは主体性に対する価値の置き方が異なることが示唆されている。これまでにみてきた社会サービス法においても、コムーネへの市民の関与の枠組みである高齢者委員会や、利用者との協働といえるボランティア団体との協働が定められている。このように、市民が積極的に社会の中で役割を担う成熟した市民社会において、政府や自治体は市民の意向をくみ取った施策を実施していかなければならない。この結果、さまざまなサービスは退行することは許されず、高齢者ケアシステムも網の目を縫うようにしてサービスはめぐらされ、システムとして機能していくようになる。当然、集会が禁止のため、高齢者ボランティア団体の日々の活動は一時的にはかなり縮小されざるを得なかった。しかし、日本よりもはるかにインターネットやICTが普及しているお国柄のため、そうした技術を用いて、自宅にこもりがちな高齢者とのコンタクトに活用するなどしていった。そして、そもそも地域におけるシステムとしての流れができているため、それがコロナ禍で絶えるわけではなく、動ける範囲内でこれまでどおりの連携は続けられた。動ける範囲が広がれば、連携も少しずつ元に戻っていった。Ⅲ. コロナ禍における地域連携の在り方についてコロナ禍は当然、デンマークも襲った。大陸国として、外国と陸続きで接しているデンマークでは、人の往来が島国日本と比べるとはるかに容易で、新型コロナ感染拡大防止について、大変神経質となった。そのため、日本と同様に、外国人の入国をシャットアウトし、集会も一時禁止となった。医療福祉分野においては、感染症は当然ながら常に気をつかっているものであり、医療の入り口である家庭医すらコロナと疑わしい者の診察拒否も続いた。しかしながら、ワクチン接種が進むにつれて、制限は少しずつ少しずつ緩和されていった。

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