健保連海外医療保障_No.134_2024年9月
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65健保連海外医療保障 No.1342年間受講して、社会ディプロマ(業績証明)を取得する長期コースもある(野口編 2013)。教育内容は、認知症ケア論、医学的知識、高齢者心理、文化史、コミュニケーション、権利擁護と多岐に渡る。山梨(2010)は、認知症コーディネーターの役割と機能について、①認知症高齢者のニーズの把握、②ニーズに応じた地域資源のネットワーク化、③介護職員の教育・指導と個別ケースに応じたスーパーバイズ機能、④家族や地域への情報提供および啓発活動、などを挙げている。デンマークの認知症コーディネーターは「自己決定や地域社会生活の継続、そして認知症ケアにおける個別の課題解決を目的として、医療・介護・家族・地域住民・ボランティア・地域資源等をつないでいく」とし、これに対し、日本のケアマネージャーは「既存サービスの組み合わせに留まるケアマネージメントが少なくないのも実情といえる」と指摘している。汲田(野口編 2013)は認知症コーディネーターの職務について、①家族と関係機関をつなぐ役割、②認知症に関する教育普及を行う、③スーパーバイズを行う、としている。汲田が調査を行ったアーセンス・コムーネでは、認知症コーディネーターは認知症と診断された高齢者の自宅を2週間以内に訪問し、ニーズを把握して、サービスを決定するコムーネの担当者に報告する。その後は、本人の状態をみながら定期的に訪問し、ニーズを仲介する窓口、つまり相談支援業務を行っている。日本のケアマネージャーと全く同じではないが、実質的なケアマネージメントを行っているといえる。ミドルファート・コムーネの認知症コーディネーター、Konradsenに2015年11月に実施したヒアリングによれば、同コムーネには現在、認知症コーディネーターは3人配置されている。3人の資格は、Konradsenは社会保健介護士、ほかの2人は看護師とケアホームアシスタント(社会保健介護士の資格ができる前の介護資格)。それぞれが平均して40人程度の認知症のケースを扱っている。基本的には、ケースのタイプ、つまり程度、男女、年齢などによって担当を分けてはいないが、若年性認知症については1人が、アルコール性認知症についてはもう1人が専門的な教育を受けているので担当することが多いという。Konradsen自身は、認知症ケア手法であるマアテ・メオ・メソッドの専門教育を受けているため、このメソッドを使った困難なケースの支援を専門に行っている。そのほか、住宅改造、GPSの使用の認可などさまざまな担当も3人の中で振り分けられている。ケアプランの作成担当であるヴィジテーターは、ミドルファート・コムーネの高齢者部署には6人いる。認知症コーディネーターは、認知症の診断を受けた者の自宅を訪問し、本人や家族、生活、自宅、地域の状況などを評価し、ヴィジテーターに報告する。その際に、しばしばどのようなサービスが必要かを付け加える。ヴィジテーターはこの報告と、必要であれば自らの訪問で取得した情報をもとにケアプランを作成する。コムーネによっては、ヴィジテーターの役割を認知症コーディネーターが担い、認知症の人のケアプランを直接作成するところもあるという。政治へ積極的に参与する国民性は、子供のころから養われる。日本の小中学校に相当する10年制の国民学校(Folkeskole)では、学校理事会がすべての学校に設置され、生徒も代表として理事に選ばれ、学校の運営に参加する。成人になり、働き始めると、職業ごとの労働組合に加入するのが普通で、組合の組織率は70%にも達する。みなで結束して、働きかけるという連帯の精神が国民性となっている。高齢になっても、コムーネには、65歳以上の3. 成熟した市民社会における 高齢者の参加デンマークにおける市民社会では、市民が自身の環境を変えるために、積極的に政治に参加し、国政選挙の投票率は常に80%を超える。日本の市町村に相当するコムーネの議会選挙でも投票率は70%前後が一般的である。

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