61健保連海外医療保障 No.134る。日本の特別養護老人ホームや有料老人ホームのユニットケアのようでもあるが、日本の場合は高齢者が住まうのは居室・自室であり、デンマークでは居宅・自宅なのである。また、デンマークにおける住まいの保障が、「住宅手当が最低所得保障を実現するための不可欠な要素となっている」ことを倉地(2020)は指摘している。ヨーロッパの住宅政策は1970年代に公営住宅による「物」による保障重視から、幅広い所得階層を対象とした「人」に対する、普遍的・直接的に保障を行う住宅手当重視へと転換した。デンマークもその流れで今に至っている。手当の支給額は世帯所得や住宅費用などによって計算される。倉地は同時に、住宅手当と両輪を成すのが「社会住宅」であるとも言う。社会住宅は公営ではないが、非営利組織によって管理され、建設から住宅の質にまで政府の規制がかかり、家賃が高くはならないよう設計されている。こうした社会住宅の提供と住宅手当の対象は、高齢者にも当然あてはまり、老後の国民年金で高齢者住宅に住むことが充分成り立つのである。デンマークにおける介護サービスの受給の流れは以下の通りである。受給するためにはまず、コムーネに申請する。申請は、本人のほか、家族、ホームヘルパー、家庭医などでも可能である。そのうえで、ヴィジテーターと呼ばれるコムーネのケアプラン作成担当職員が自宅訪問、面談した後、コムーネ内の審査チームがサービス受給について判断、決定する。決定に対して不服があれば、不服を申し立てる機関も存在している。提供されるサービス内容は、高齢者センター(特養に相当)や高齢者住宅への入居、住宅改造、24時間訪問介護・看護、デイセンター、トレーニングセンターなど多岐にわたり、多くが無料である。地域において認知症を含む精神疾患を抱える住民に訪問医療・看護を提供する地域精神医療班は、レギオーンが管轄している病院に属しているが、コムーネのサービスと密接に連携している。家庭医も、レギオーンとの契約に基づいて各地域に配置されているが、コムーネのサービスと密接に連携している。日本の地域包括ケアシステムで示されている、医療、介護、住まい、生活支援、介護予防といった各要素の連携が密接に行われている。ただし、民間のサービスがまったくないというわけではない。在宅ケアの家事援助などの比較的軽微なサービスについては、民間事業者が一部参入している。一般的にコムーネでは、生活支援や家事援助のようなより軽度なケアについては民間事業者が全体の2、3割程度を占めているという。デンマークの社会福祉に関する基本法ともいえる「社会サービス法」第91条には「援助の利用者が、その援助の受託事業者を2つ以上から選ぶことができるよう基盤を整えなくてはならない。それらのうち1つはコムーネであることができる」と示している。つまり、ケアプランの作成時に、利用者にいくつかの選択肢を提示しなければならないというわけである。デンマークのコムーネ担当者らは、「コムーネを選んでも、民間事業者を選んでも費用は変わらない。ただ、民間事業者によっては、サービス内容により融通を利かすなどの利点が多少はあるかもしれない。しかし、その融通が必要ないという人も多いので、コムーネのサービスを選ぶ人が圧倒的に多い」と声をそろえている。図2で示しているのは、デンマークの高齢者ケアの変遷と構図である。ケアの基本は③の住宅である。そのため、高齢者・障害者住宅法によって充実した住まいが確保されている。しかしながら、住まいを確保する以前から、高齢者ケアは存在し、デンマークでもかつては施設でのケアが中心であった。しかし、高齢者福祉の3原則に基づき、施設の部屋から、ケア付き住宅といえる①のプライボーリへと発展し、さらにその集合体であり、デイサービスなどが結合した⑤のプライセンターが登場した。また、施設やプライボーリではなく、自宅での生活を継(2)介護サービスの受給の流れ
元のページ ../index.html#64