59健保連海外医療保障 No.134ネが運営の中心である。医療を担当するレギオーンは、病院や、自宅で暮らす認知症を含む精神疾患を抱えた者を訪問医療・看護でサポートする地域精神医療班を運営する。医療サービスでも民間が占める割合はごくわずかである。民間病院はほぼゼロといえるが、公立病院とはいえ、経済・効率性の観点から、入院日数を可能な限り短縮するために早期退院が行われている。早期退院を支えるには、地域での在宅看護・介護の充実が必須となる。従って、医療と介護の密接な連携は必然とされている。また、国民は自分の家庭医を登録しなければならず、すべての医療はこの家庭医を最初に通さなければならない。家庭医はレギオーンとの契約に基づいて各地域に配置されているが、地域においてはコムーネのサービスと連動し、予防接種、検診、ターミナルケアなどを受け持っている。デンマークでは早くも1901年にはのちのプライエムにつながる養老院が開設され、1936年には高齢者向け公営住宅である年金者住宅の整備がはじまった。1967年には、養老院のあとを継ぐものとして、日本の特別養護老人ホームに相当する「プライエム」のガイドラインが設けられた。ガイドラインでは、①個室が基本、②トイレ・シャワー付き、③緊急時のためのアラーム付き、④面積は17㎡前後、⑤ベッドは施設のものを使用、家具は使い慣れたものを自由に持ち込んでよい、ない場合はコムーネが支給する―というものだった(中田 2015)。また、独りで24時間の生活には不安がある、より自立度の高い高齢者向けの保護住宅も設けられた。さらに、1976年からは、高齢化対応の公営賃貸住宅である高齢者集合住宅の供給がはじまった。レストランや集会所が中央に設けられていた(松岡 2009)。このように高齢者への住まいである施設を充実させていったデンマークであるが、1979年に「プライエムに入っている高齢者は鎮痛剤を飲まされ、死ぬしかない」という投書が新聞に掲載され、大きな転換が起きる(野口編 2013)。その後、今後増加が見込まれる高齢者への医療・福祉のあり方が議論されるようになり、高齢者福祉の支出を抑えつつ、かつ質を落とさないためには今後どのようにしていくべきかを検討する高齢者審議会が設けられた。その後2年間かけて審議され、「高齢者サービスのあり方に関する答申」が1982年に出された。答申では、①お年寄りはケアされるのを求めるのではなく、むしろ社会的な交流や役割を持ち続けたいと望んでいる、②約10万人の高齢者が誰かの援助を受けなければ外出できない状況にある、③住居に関する問題こそ、高齢者政策におけるもっとも重要で深刻な問題である―の3点が示された(松岡 2001)。この3点から高齢者福祉の3原則、①継続性、②自己決定、③自己資源の開発―と7つのケアシステム、①補助器具の利用促進、②予防と機能訓練の提供、③ホームヘルプサービスの提供、④訪問看護サービスの提供、⑤緊急システムの導入、⑥給食サービスの提供、⑦文化活動の促進―が答申の中で提言された(中田 2015)。松岡(2001)は、3原則の①継続性とは、「高齢者の生活をできるだけ変えないようにサポートして、いつまでも元気で暮らしてもらおうというもの」としている。在宅から施設へ移るときの「トランスファー・ショック(環境移行の弊害)」の予防(もしくは回避)だけでなく、多くの人と交わりながら社会の中で生活し続けることである。②自己決定は「高齢者の暮らし方・生き方は高齢者自身が決め、まわりはそれを尊重し支えるというもの」としている。これは、自由に生きることを教育されてきたデンマーク人にとってごく当たり前のことであり、社会の通念のようなものでもある。③自己資源の開発は、残存能力の活性化、とも呼ばれ、「過剰なケアをやめて、残っている能力を使い切るこⅡ. デンマークにおける在宅ケアの概要1. 歴史的経緯・背景
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