“福祉大国”とも呼ばれる北欧の小国・デンマーク。施設ケアではなく、在宅ケアを中心とし、さまざまな職種や団体が連携し合いながら、まさにシステムとして、国民すべてに医療・介護が公共サービスとして提供されている。徹底した地方分権で、財源を確保した地方自治体がサービスの運営主体である。日本の民間主体のサービス運営とは大きく異なる。しかしながら、老化防止の運動、隣人の日々の見守りなどの地域での活動については、ICTの活用や高齢者のボランティア団体の活動が公共サービスを補完している。本稿では、日本と真逆ながらも、だからこそ発想の転換ともいえる示唆を与える面が多いデンマークを紹介する。58デンマークでは2007年、自治体の大合併が実施された。これにより、14のアムト(都道府県に相当)を廃止して5つのレギオーン(いくつかのアムトが統合された行政区分に相当)に再編され、275あったコムーネ(市町村に相当)が98に削減された。平均すると、レギオーンは100万人前後、コムーネは5〜6万人の規模となった。大合併の目的は、「地方自治体の行政効率化とサービス向上」であり、背景には「人口の高齢化」「グローバル化」「情報知識社会」があった(野口編 2013)。自治体を一定規模に引き上げることで、行政の効率化とサービス向上を考えた。また、自治体に体力を持たせることで、国々がひしめき合う欧州では自治体単位でも当たり前に考えなければならないグローバル化や情報知識社会における地域間競争を勝ち抜く術として、大合併が実施された。大合併による自治体規模の変化に伴い、自治体の役割はより明確化され、医療はレギオーン、福祉、初等教育、労働はコムーネが担当することとなった。福祉を担当するコムーネは、日本の特別養護老人ホームのような重度なケアを必要とする高齢者を対象とする住戸が集まった高齢者センター、デイセンター、トレーニングセンター、24時間在宅介護・看護といったほぼすべての福祉サービスを直営で提供しており、日本のケアマネージャーに相当するケアプランを作成するヴィジテーターや認知症コーディネーターもコムーネの職員である。デンマークでは福祉サービスの中で民間が占める割合は少なく、コムー日本医療大学 講師銭本 隆行Zenimoto TakayukiⅠ. デンマークの医療・介護保障制度の概要ドイツの上に突き出した北欧の国・デンマーク。九州を一回りほど大きくした面積に人口約596万人が暮らす。2022年の国民一人当たりのGDP(国内総生産)は6万6,516米ドルで、日本の同3万4,064米ドルと比べ、かなり裕福である。特集:在宅ケアと地域連携デンマークの在宅ケアを中心とした高齢者ケアシステム —自治体統括のケアプログラムと市民参加をもとに—
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