健保連海外医療保障_No.134_2024年9月
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健保連海外医療保障 No.134守秘義務や、特に未成年の子が妊娠中絶を行う場合の意思の尊重などがあり、これらについては、医師の行動準則であり内部規範である「Good Medical Practice」や産婦人科勅許学 会(Royal College of Obstetricians and Gynaecologists)から具体的な指針なども出ている。また、医師会からも妊娠中絶に関する法制度等をまとめた冊子が出ている。BMA, The Law and ethics of abortion: BMA views, (2020 updated 2023).42) 日本の場合、妊娠中絶にかかる費用は基本的に保険の適用外であり、12週(85日)以降の場 合、一定の条件を満たせば(家族)出産育児一時金の給付対象になるなど、負担軽減となりうるものは例外的なものにとどまる。43) NHS病院外の実施機関として、British Pregnancy Advisory Service(BPAS), MSI Reproductive Choices UK, the National Unplanned Pregnancy Advisory Service (NUPAS)などがある。44) 以下、本文中の妊娠中絶にかかる数値は、Abortion statistics for England and Wales:2022(2024)による。なお、日本での実施件数は12万2,725件(2022)で、前年度2.7%減となっている(厚生労働省『令和4年度衛生行政報告例 母体保護関係』(2023))。45) 中絶数の増加に関し、過年度の統計も踏まえ、若干敷衍しておきたい。中絶数全般において、2010〜2016年では概ね18.5万件前後で推移していたものが、2017年に約19.3万件、2018年には約20万件、2020年には約21万件、2021年には約21.4万件と増え続けており、2022年には25万件を超えるに至っている。併せて実施方法に着目してみると、イギリスでmifepristoneが初めて承認されたのは1991年であり、その後、徐々に薬剤による実施が増え、実施方法の割合において外科的手術と薬剤による方法とが逆転するのは、2014年である。以降その差は広がり、2022年には、薬剤による方法が86%、外科的手術が14%となっている。また薬剤の服用方法については、本文中でも述べたように、2020年3月から暫定的に自宅で2種とも服用できるようになると、2種とも自宅で服用する者の数は増え (代わりに外科的手術による割合が減っている。ただし、これはコロナ禍の行動制限によるところが大きい)、2020年は実施件数で7.2万件(457月以降の計)となり、同年内の薬剤による方法全体の約4割、中絶全体の約3割となっていた。これが、2021年には件数で11.1万件(薬剤による方法全体の約6割、中絶全体の約5割)、2022年には15.2万件(薬剤による方法全体の7割、中絶全体の6割)と、実施件数・割合ともに増えていく。これらの結果から、薬剤でかつ自宅で実施という方法の変化と中絶数の全体の増加との間には一定の相関があるようにも思える。しかし、イギリスの中絶実施機関の調べによると、むしろこの間の物価高や生活費の高騰による経済的理由が大きいと指摘されている。例えば、British Pregnancy Advisory Service, The Cost of Living Factor 2024, 2024. MSI Reproductive Choicesも同様の経済的要因と、避妊サービスへのアクセスの問題があるとしている。https://www.msichoices.org.uk/news/msi-comment-on-2022-abortion-statistics-for-england-and-wales/(2024/8/8閲覧). なお、イギリスでの中絶実施の理由には、日本の母体保護法にある「経済的理由」は規定されていないにもかかわらず、という点にも注意を要する。46) BMA, The removal of criminal sanctions for abortion: BMA Position Paper, 2019. BMA, How will abortion be regulated in the United Kingdom if the criminal sanctions for abortion are removed?, 2019.47) 北アイルランドでは、2019年に非犯罪化さ れている。Northern Ireland(Executive Formation etc)Act 2019(c.22)、9条。

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