3健保連海外医療保障 No.134フランスの介護保障は、欧州諸国にみられる要介護者の年齢を限定しない制度とは異なり、障害者(児)介護と高齢者介護に区分した制度を歴史的に有している。介護について、高齢と障害の給付体系は別々であるが、その財源管理については、2004年に創設された全国自律連帯金庫(CNSA)が管理を行っている。全国自律連帯金庫の主な財源は一般社会拠出金(CSG)で、全体の9割弱を占めている。介護に関する給付は、要介護度に応じて様々あり、給付主体も多様である。一例を挙げると、一定の収入以下の人が受給する県の社会扶助による介護関連の給付、収入に関係なく受給できる高齢者介護給付(個別化自律手当(APA)) や障害者介護給付(障害補償給付(PCH))などがある。また、ホームヘルプサービスや生活支援サービスについては、高齢者に関する県の社会扶助や要介護度が低く個別化自律手当の給付対象外の高齢者に関する全国老齢保険金庫(CNAV)などによる社会福祉の給付、各自治体の補足給付など、その給付主体は多岐にわたる。この他、介護関連の給付として、住宅改修や情報処理関係の支援、介護者支援などがある8)。在宅ケアにおける介護費用はこれらの給付を組み合わせて賄われるが、このうち中心的な給付が個別化自律手当である。収入に関係なく、60歳以上でフランスに安定して正規に居住している高齢者はAPAを申請することができる。県に申請を行うと、医療福祉チームによる要介護調査とケアプランの作成が行われ、県による給付の可否と、支給額の認定が行われる。要介護度評価にはAGGIRとよばれる全国統一基準が用いられ、要介護度は状態に応じて最重度GIR1から最軽度GIR5のほか、非該当・自立であるGIR6に判定される。このうち、APAを受給できるのは、最重度GIR1から中等度GIR4と判定された人である。APAには、在宅サービスに関する在宅APAと施設サービスに関する施設APAがある。在宅APAはケアプランに含まれるサービスのうち、ホームヘルプサービスや食事の宅配、移動、住宅改修、短期入所サービスなどの費用の全部または一部を対象とする。施設APAは施設入居者の介護費を対象とする。いずれのAPAも一定額以上の月収がある場合には自己負担が発生する。また、在宅APAには給付の上限9)がある。APA関連の費用は、CNSAと県が負担している。なお、フランスでは、高齢と障害の制度体系が別々にあるため、APAとPCHの併給の可否がわが国と同様に問題となる。PCHは、最初の申請時に60歳未満で、障害により日常生活を営むのに援助が必要な人々を対象とした給付であり、障害サービスに関する費用の全部または一部をカバーする。これに対し、APAは、自宅または施設で暮らす60歳以上の人の自律の喪失に関する費用の全部または一部をカバーする。この両者を併給することはできないが、どちらも受給する資格がある人は、APAとPCHの間で選択することができる。在宅ケアを推進する諸施策の基底には、在宅生活の維持という考え方がある。歴史的には、すでに18世紀末の公的救済をめぐる法令にその片鱗をみることができるとされるが、より具体的には、19世紀末から整備されてきた貧困者のための社会救済制度にみることができる10)。社会救済では、施設入所より在宅での救済を優先するとされていたが、その救済の多くは主に教会に併設されたオスピス(施療院)を中心としたものであった。1950年代初頭には、ホームヘルプサービスの萌芽をみることになる11)。その活動の多くがそれまでの伝統的な慈善活動を継承しており、民(2)個別化自律手当(APA)3. 介護保障制度(1)概観Ⅲ. 在宅ケアの概要1. 在宅生活の維持
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