健保連海外医療保障_No.134_2024年9月
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52表3 イギリスにおける人工妊娠中絶の統計(抄)(2024年)実施方法については、薬剤使用による実施(mifepristoneおよびmisoprostolという2種の薬剤を服用する)か、外科的手術による妊娠中絶かを選択できるようになっている。実施方法については、コロナ禍を経て大きく変更されることになった。10週未満の早期妊娠中絶で、かつ薬剤使用による場合、2018年以降、1つ目のmifepristoneはNHS病院か認可された施設を訪れ服用し、2つ目のmisoprostolを自宅で服用できるようになっていた。これがコロナ禍の影響により、薬剤使用による中絶について、暫定的に自宅での両方の薬剤の服用を認めることになっていた(2020年3月30日〜)。その後、2022年3月の議会で法改正が行われ、この暫定的な取り扱いが恒久化された。では、イギリスにおける人工妊娠中絶の実施状況はどうなっているのだろうか。2022年には25万1,377件の人工妊娠中絶が行われている(表3参照)44)。この数値は人工妊娠中絶法実施以来最多となり、前年比でも17%増加となっている45)。このうち、NHSとして実施されているものは全体の99%を占めている。ただし、そのうちNHS病院で実施されているのは19%程度で、残りの80%はNHS病院外のクリニックなどとなっている。中絶を行う当事者の状況として、未婚が全体の82%、実施週数は10週未満が88%、実施理由については、先の表2における「C」(24週未満で、妊婦の身体的または精神的・実施件数:251,377件(2022年、イングランド&ウェールズ) ※妊娠中絶法施行後最大数 -247,081件(99%)はNHSとして実施、ただし、200,258件(80%)がNHS病院外cf. 日本)122,725件(2022年)・当事者の状況:20歳未満 25,932件(10%)/20-34歳 179,213件(71%)/35歳以上 46,232件(18%)未婚 177,367件(82%) -うち、パートナーなし 49,454件(23%)/パートナーあり 110,510件(51%)・実施時週数:2〜9週 221,584件(88%)/10〜12週 12,316件(5%)/13〜19週 13,993件(6%)/20週以上 3,484件(1%)・実施方法:薬剤使用 217,258件(86%)/外科的手術 34,119件(14%)・実施理由:最も多いのは、「C」247,440件(98%)「E」3,124件(1%)-うち、先天性奇形が53%、染色体異常が27%出所:Abortion statistics for England and Wales: 2022(2024)をもとに執筆者作成理由)が最も多く、全体の98%である。他方、同「E」(生まれてくる子の障害)を理由とするものも、1%程度存在している。このような方法(特に薬剤による実施の普及)の変化等を踏まえ、イギリスでは、妊娠中絶をめぐり、堕胎を刑法上の罪とせず、非犯罪化して、他の医療の場合と同じように、プロフェッションである医師によるコントロールに委ねよ、ということを医師会全体として採択している(2017年)46)。犯罪として取り扱うことで、誰にも相談できず、手遅れになってしまったり、非正規の術者に委ねざるをえなかったり、あるいは、オンラインで非正規の薬剤を入手することにつながりかねない。これに対して、堕胎を罪とした立法当初の時代から比べればより安全な妊娠中絶が可能となっており、このような医療技術の進展などを考慮に入れたうえで、一般の医療と同じような扱いをすべし、というのがその要旨である。イギリスの医療制度(医師制度)の論理を踏まえれば、ある意味で現実主義的でイギリス的な見解と評することもできよう。なお、現在まで法改正には至っていない47)。Ⅴ. まとめ—コロナ禍を経た地域連携・在宅ケアのあり方について本稿では、イギリスにおける地域連携と在宅ケアについて紹介、検討してきた。最後に、紹

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