000051表2 妊娠中絶を行うことができる理由るため、この点に絞って若干敷衍しておきたい。1967年法のポイントは3点ある。1点目は、判断の仕方である。2人の医師が、法律に示されている理由に即して、「誠実に(in good faith)」実施の判断を行う、という点である39)。日本のように「配偶者の同意」は必要とされておらず、妊婦本人の意思に基づき、医師によって判断される40)。ただしこのとき、医師には、緊急避難の場合を除き、実施判断についての良心的拒否の権利が認められており、拒否する場合には、その旨を本人に伝えるとともに、判断できる医師を紹介しなければならない。また、2人の医師が行うのは、実施の判断0であり、後述するように、必ずしも自ら実施しなければならないわけではない41)。2点目は、妊娠中絶を行う場所について、基本的にNHS病院か認可を受けた施設に限定されている。ただし、これも後述するように、法改正が行われ、現在は、一定の条件を満たす場合には、妊婦本人が「自宅」で行うことができるようになっている。3点目は、違法性阻却となる理由である。法律に基づき人工妊娠中絶を行うことができる理由を、公表されている統計との関係で整理し直すと表2のようになる。妊娠中絶の対象となる期間が24週 未満とされており、日本の「通常妊娠満22週未満」(平8・9・25厚生省発児122号)と比べ長A妊娠の継続が、妊娠を終了させた場合よりも、妊婦の生命に危険を及ぼす可能性が高い場合(1967年法1条1項c号)B妊娠の終了が、妊婦の身体的または精神的健康への永続的かつ重大な傷害を防ぐために必要と判断される場合C妊娠24週未満であり、妊娠の継続が、妊娠を終了させた場合よりも、妊婦の身体的または精神的健康を損なう危険が大きい場合D妊娠24週未満であり、妊娠の継続が、妊娠を終了させた場合よりも、妊婦の家族である既存の子の身体的または精神的な健康を損なう危険が大きい場合E出生する子に、身体的または精神的な異常のために深刻な障害を受けるという実質的な危険がある場合F妊婦の生命を救うために直ちに必要な場合G妊婦の身体的または精神的健康に対する永続的かつ重大な傷害を防ぐために直ちに必要な場合(1967年法1条4項)出所:Abortion statistics for England and Wales: 2022(2024)をもとに執筆者作成健保連海外医療保障 No.134いほか、妊婦本人(母体)への身体的・精神的影響に加え、既存の子への影響や生まれてくる子の障害なども理由に挙げられている点などに相違がある。次に、具体的な妊娠中絶の実施の流れについてみていくことにしたい。イギリスでは、妊娠中絶もNHSの下で、費用負担なしで行われる42)。NHSで行う場合、① 妊娠中絶を実施している機関43)に直接連絡をする② 登録しているGP診療所のGPを通じて実施機関を紹介してもらう③ セクシャル・ヘルス・クリニックと言われる相談機関に実施機関を紹介してもらうなどの方法により、NHS病院やNHSの認可を得ている施設(クリニックなど)にアクセスする。実施機関では、一般に、妊娠中絶をする理由と意思確認(+同意書への本人の署名)が行われる。このとき、自身の担当GPやその他の助言機関に相談可能であり、特に、16歳未満の場合については、意思能力の有無の判断なども併せて行われる。また、対象となるのは、妊娠24週未満の場合が原則(ただし、例外的に、医師が必要と認める場合はそれ以上の場合でも可能)であるため、超音波スキャンによる状況確認(週数確認)、性感染症の検査なども行われる。(1967年法1条1項b号)(1967年法1条1項a号)(1967年法1条1項a号)(1967年法1条1項d号)(1967年法1条4項)
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