健保連海外医療保障_No.134_2024年9月
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50表1 職者ごとの出産担当件数妊婦または産後12か月以内の者は、「NHS出産期費用負担免除証明書(NHS maternity exemption certificates)」を取得すると、各種処方箋薬の一部負担や歯科診療にかかる負担も免除されることになっている35)。妊娠・出産にかかわる職者は、助産師36)やGP、病院医では、産科医(obstetrician)、婦人科医(gynaecologist)などである。年度により多少のばらつきはあるものの、NHSにおいては、助産師による分娩が最も多く、47%程度となっており、次いで、病院医が43%前後、GPその他が10%前後となっている(表1参照)。また、分娩の場所については、自宅を含め、助産院、病院など、基本的に妊婦が自由に選択することができる。しかし、実際には助産院や病院などで行われている。ただしその場合でも、出産時の平均在院日数は短く、多くの場合は、同日または翌日には退院している状況である。出産サービス全般にわたり、日本との比較で興味深い点の一つは、関連するチャリティ37)による様々な情報提供、啓発活動が行われている点である。特にその内容について比較してみると、日本の場合、出産時に利用できる各種給付(金銭やサービス含む)についての情報が中心であるのに対し、イギリスでは、医師に何を期待し権利として主張できるのか、といったことなどを細かく、ファクト・シートとして情報提供しているところに特徴がある。このような点にも、社会の中の医療というイギリス的医療の状況を看取することができる。年度病院医2022-23165,925(45.2%)2021-22173,238(43.2%)2020-21165,141(42.2%)2019-20165,093(39.8%)※数値は、NHSイングランド内についてのもの。()内は、把握されている出産数に対する割合。出所:NHS Maternity Statisticsのデータより執筆者作成助産師164,307(44.77%)187,780(46.82%)186,266(47.63%)205,186(49.44%)GPその他36,804(10.03%)180,20840,081( 9.99%)177,46339,648(10.14%)168,67344,717(10.78%)176,763イギリスでの妊娠中絶は、その大枠は日本と通底するところがある。しかし、具体的なしくみや、コロナ禍を通じての近年の変化など、なおイギリス独自の点もみられる。そこで、このような違いに目を向けつつ、近年の変化について指摘していくことにしたい。まずは前提となる妊娠中絶の法的枠組みや論理を概観しておこう。日本と同様、イギリスでも、堕胎は法律上の罪と位置付けられている。具体的には、1861年人身に対する犯罪法(Offences Against the Person Act 1861(c.100))は、自己または他人が毒物や器具を用いて流産(miscarriage)させることを罪とし(58-59条)、さらに1929年 乳児生命(保護)法(Infant Life(Preservation) Act 1929(c.34). 以下、1929年法)は、「生きて出生することができる子の命を奪う目的で、母親から独立する前に、故意に子を死亡させた者」を終身刑とする(1条1項)。ここで、「生きて出生することができる」という点は、28週以降の妊娠をもって判断されることになっている(同2項)。その後、1967年人工妊娠中絶法(Abortion Act 1967(c.87). 以下、1967年法)により、原則24週未満38)の場合であって、当該法律の要件を満たした場合には、1929年法違反とならない、として違法性阻却を規定することとなる。この1967年法は、大枠においては、日本の母体保護法と同じような位置づけの法律であるといえる。しかし、具体的な要件の設定や論理には日本とは異なるイギリス的特徴があ不明547,244578,562559,728591,759計2. イギリスの妊娠中絶について

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