健保連海外医療保障_No.134_2024年9月
51/82

—イギリスのコンテキストから48くみについて概観しておくことにしたい。社会的処方の具体例には、GP以外の保健・医療関係者や地域の諸団体他が起点になるものも存在している28)。しかし、多くはGPを起点としている。GPは医学的治療の必要性がある場合には、(薬剤の)処方箋を発行し、また、より専門的な治療が必要と判断すれば、病院におけるセカンダリ・ケアを受けるよう紹介を行う。しかし、これらによっては効果を得られない場合、患者の抱える根本的な問題が「健康の社会的要因」(Social Determination of Health. 以下、SDH)にあるような場合、「リンク・ワーカー(Link Worker)」につなぐことになる。要するに、医師が社会的処方の処方箋を実際に書くわけではなく、臨床判断に基づき、医療以外のサービスの必要性を仕分ける(切り分ける)作用が社会的処方の実体ということになる。ところで、リンク・ワーカーという言葉は、その役割に着目した総称であり、実際には様々な呼称がある29)。しかしいずれにせよ、社会的処方における実質部分を担っており、このリンク・ワーカーが、患者を地域の活動や団体、あるいは様々なサービス・給付等へと結びつけることになる(ゆえに、社会的処方箋者(social prescriber)ともいわれる)。リンク・ワーカーの実際の業務は多岐にわたる。主要な業務の一つは、SDHを踏まえた、健康やウェル・ビーイングを実現するための当人のニーズの確認である。GPが臨床的判断で対応するよりもはるかに多くの時間をかけて対話を行う。このとき重要だとされているのは、紹介された患者に対 し、介入するのではなく30)、いわゆるコーチングという手法を用いて、当人に時間を与え、自分にとって何が重要なのか、ということの気づきを促すことだとされている。そして、それを踏まえ、継続的な、実践的・精神的サポートを提供しつつ(伴走型支援)、適切なコミュニティグループや団体、サービスなどにつなげていくことになる。したがって、地域の社会資源の捕捉・協力関係の維持やコーディネートの手腕も求められることになる。一方、リンク・ワーカーとして求められる特段の資格のようなものは存在しておらず(雇用条件として示される、望ましい資格のようなものはある)、自治体職員や教員、チャリティの職員など様々な経歴を持った人たちがこれを担っている。現在、リンク・ワーカーの多くは、PCNを通じてGP診療所で雇用されている。その場合の給与は概ね年2万7,000ポンド程度(2022-23年度NHS俸給表グレード5相当)であり、業務量としては、3か月に6〜12回のセッションを行い、年間200〜250人程度の担当を想定されている31)。リンク・ワーカーは、コーチングによって引き出した当人のウェル・ビーイングの実現のために、適切な活動や団体、サービス・給付へとつなぐ。社会的処方の対象者は限定されておらず、すべての人を対象としている。ただし、より効果的だと考えられている対象として、(複数の)長期疾患を抱えている人、軽度の精神的疾患を抱えておりサポートが必要な人、孤独や孤立を感じている人、ウェル・ビーイングに影響を与える複雑な社会的ニーズを持っている人、などが指摘されている。このような対象者を支えるために地域で提供されているサービスは、チャリティが提供するものをはじめ、その活動規模や提供形態も様々である。また、内容も、アート、身体的な運動、文化サークル、ガーデニング、家庭農園のようなものなど多岐にわたる。他方、SDHには、失業、住居の確保、あるいは借金のような金銭問題、日常生活における介護者としての悩み、家庭での暴力や孤独といった解決すべき問題まで幅広いものが含まれているため、このような場合には、問題の解決に向けて具体的な助言を与えてくれるようなサービスや給付につなぐことになる。社会的処方は、現在のNHSの「統合」、とりわけ、プライマリ・ケア・レベルでの提供体制の統合と、個人ケアという利用者レベルでのサービスの統合の中で実施されている新しい取り組3. 若干の検討

元のページ  ../index.html#51

このブックを見る