000000000047健保連海外医療保障 No.134ケアにおける在宅推進は、在宅での専門的治療の展開00を意味している。特に、高齢者にとって病院はメリットもある一方でリスク(慣れない環境で過ごすことによる機能低下や院内感染など)ともなりうる点から、病院への入院に代わる効果的な専門医療の提供の試みが行われている、ということである。これにより、入院をより必要とする人たちにベッドを確保することができ、患者自身も入院を待たずに済むとされている。ここでは、セカンダリ・ケアにおける在宅ケアとして、「在宅病院(hospital at home)」という取り組みについてみていくことにしたい。なお、NHSイングランドの進める在宅病院は、「バーチャル病棟(virtual ward)」という言葉が用いられている20)。自宅を「病棟(病室)に見立てている」ということである。英国在宅病院協会(UK Hospital at Home Society)によれば21)、在宅病院の特徴は、一般に、①専門医によるセカンダリ・ケアの提供②急性期疾患(acute medical condition)の管理を目的としている点にある。したがって、プライマリ・ケアの対象となるような状況への対応は想定されておらず、慢性期疾患の急性増悪への対応はありうるものの、基本的に、急性期疾患への対応であり、複雑・高度な治療を必要とする患者の管理を行う。ゆえに、一般に1〜14日の期間限定の短期介入を提供するものとなっている。また、このサービスは、入院予防のための施策ではない、とされている。あくまでも、急性期疾患により入院が必要な患者のための、従来の入院に代わる選択肢を提供するものであり、基本的には、入院時と同様のクリニカル・ガバナンスが適用されるという。そして実際のところは、各種ウェアラブル端末やデジタル機器を駆使して患者のモニタリングなどを行うのが主であり22)、多職者の連携チーム(multi-disciplinary health care team:MDT)による実際の対応を行うことも構想されている。また、必要に応じて、血液検査や超音波検査なども、即時検査(point of care)として行われるとされている。当該サービスは、イングランドでは、NHSとして、急性呼吸器感染症(Acute Respiratory Infection:ARI)バーチャル病棟とフレイル・バーチャル病棟(frailty Virtual Wards/Hospital at Home for Frailty)の2種について取り組みが行われているようである23)。いずれにせよ、これら試みはまだ途上にあり、運用基準やその効果の検証などについても必ずしも十分に展開されているわけではない。今後について引き続き注目していきたい。次に、イギリス発祥とされる社会的処方 (social prescribing)についてみていくことにしたい24)。社会的処方は、一般に、様々な問題を抱えて不調となっている人を、医療以外の、地域での活動などにつなげ、その人の健康や ウェル・ビーイングを向上させよう、という取り組みであるとされる。以前から、地域紹介活動(Community Referral)など現場での取り組みとして展開されてきたものであった25)。それが、これまで述べてきたような、NHSにおけるサービスの統合化の中で政策の中に位置づけられるようになり、NHSの中では、おおむね次のように説明されている。すなわち、「社会的処方は、全市民を対象とした個人ケアの重要な要素の一つである。それは、人々の健康やウェル・ビーイングに影響を与えるような実際的・社会的・情緒的なニーズを満たすため、地域に存在する活動や団体、サービスにつなげていく手法である」26)。孤独や孤立といった問題 —これらがしばしば疾病などにつながっていく—に対処するための新たな方策として、近年日本でも注目されるようになっている27)。社会的処方の検討を行うために、前掲図5(太い罫線で囲まれた部分)を参照しつつ、そのしⅢ. 社会的処方の意義について1. 社会的処方とは2. 社会的処方のしくみ
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