在宅ケアと地域連携健保連海外医療保障 No.1342必要な調整も妨げられているとされていた。こうした問題に対処するために、近年の高齢者政策では、在宅シフトを掲げ、医療と介護を連携する新しい類型である在宅自律サービス(SAD)を創設し、医療と介護の連携促進を図ろうとしている動きが見られる。また、これまでに展開されてきた地域における医療・福祉の連携の多種多様な取組みも見直しが求められ、単一化した連携支援システム(DAC)に再編成し、健康経路の管理の最適化を図り、在宅シフトを支えようとしている。本稿では、主にASV法制定以降に着目し、 高齢者の在宅ケアにおける医療と介護の地域連携に関する動向の一端を概観することにする。フランスにおける在宅ケアを概観するに先立ち、在宅ケアの基礎となる医療・介護保障制度を概観しておく。現在のフランスの社会保障(sécurité sociale)は、社会保障法典に定められている疾病、労災、老齢、家族、自律(autonomie)の5つの分野で構成されている。このうち、自律は介護リスクを取り扱う分野であり、高齢者介護と障害者介護を対象とするものである。要介護状態を意味する自律の喪失(perte dʼautonomie)の位置付けについては、長らく議論があったが、社会債務と自律に関する2020年8月7日の法律6)により、社会保障法典において、自律を社会保障の第5の分野として位置付けることになった。これにより、これまで社会福祉・家族法典に置かれていた自律分野の財源を管理する全国自律連帯金庫(CNSA)に関する規定は、社会保障法典に移されることになり、自律は社会保障の一分野として認められることになった(社会保障法典L.111-1条)7)。在宅ケアについては、保健医療系のサービスと福祉系のサービスに分けて理解することができる。この両系統の歴史的発展が、各地域におけるセクター間の調整・連携を必要とすることになるのであるが、詳細は後述することとし、以下では、各セクターを利用する際の制度を概観するにとどめておく。フランスの医療保険制度は、国民一般をカバーする基礎制度の基礎的医療保険と、補足的医療保険の2層構造である。基礎的医療保険は、強制加入を原則とする公的制度であり、金庫と呼ばれる職域ごとに分立した制度が担っている。基礎的医療保険の組織は、一般制度、農業制度(MSA)、特別制度(フランス国鉄、パリ交通公団などの特定の職域ごとに金庫が分かれている)で構成されており、自営業者を含む多くの人は一般制度に加入している。一般制度の医療保険金庫は、全国レベルの全国医療保険金庫(CNAM)を中心に、この地方組織として加入者の資格管理や給付等の業務を行う初級医療保険金庫(CPAM)が主として県単位で配置されている。なお、フランスには、高齢者に限定した医療保険制度はなく、現役時代の医療保険制度の金庫にそのまま加入し続ける、いわゆる突き抜け方式を採用している。かつては、医療保険料は使用者と被用者で負担する労使負担の原則を伝統的に採用し、日本のように労使折半ではなく、被用者側の負担割合が低いことが特徴であった。しかし、一般社会拠出金(CSG)が医療保険財源に充当されるようになった1998年以降、徐々に被用者側の負担割合が引き下げられ、2018年からは医療保険料の被用者負担分はなくなっている(被用者は一般社会拠出金の負担を通じて医療保険財源を負担している)。また、基礎的医療保険のほかに、共済法典に基づく共済組合、社会保障法典の適用を受ける労使共済制度、保険法典に基づく民間保険会社といった組織による補足的医療保険がある。Ⅱ. 医療・介護保障制度の概要1. 概観2. 医療保障制度
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