健保連海外医療保障_No.134_2024年9月
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45健保連海外医療保障 No.134このような提供体制全体を通じて提供していこうとするサービスが、④個人ケア(Universal Personalised Care)である。①〜③が提供側の統合であるのに対して、個人ケアは利用者にとっての統合であり、同時に①〜③の目的ともとらえることができる。この個人ケアを理解するために押さえなければならないのは、次の2点である。一つは、住民・患者が自分自身で考えて決める、すなわち、自分がコントロールする、ということに重きが置かれている点である。もう一つは、従来の、医療/福祉サービスそれぞれの範疇における定型・画一的なケアに代わって、その人に最適化されたケア=統合ケアを提供する、という考え方である(サービスに人を合わせるのではなく、人に合わせたサービスを提供していくという発想)。純粋な医療モデルではなく、地域社会で展開される、福祉サービスや様々な社会的活動などとのつながりを考慮に入れ、これらを統合するモデルと言ってもよいのであろう。このような医療保障の枠組みを前提にしつつ、イギリスでも、いわゆる在宅ケアの取り組みが進められている15)。背景にあるのは、高齢化の進行という社会基盤の変化とともに、糖尿病・認知症など医療ニーズの多様化と予防に向けた取り組みの必要性など医療サービスの利用者側からの要請、医療人材の不足と待遇改善など、提供側が直面している新たな課題への対処の必要性、である。ここで、イギリスの直面する高齢化の進行状況と社会の変化について敷衍しておきたい。あるチャリティの調査分析によれば16)、現在、イングランドの65歳以上の人口は1,000万人を超え、人口の18%を占めている(ちょうど日本の2000年代前後の状況。因みに、2023年現在の日本の高齢化率は29.1%である)。そして65〜79歳の人口は、今後40年間で約30%増加し1,000万人を超え、特に、人口の中で最も急速に増加している80歳以上の人口は、現在の2倍以上の600万人を超えると予測されている。一方、社会の変化としても、離婚経験者の数と婚姻経験のない人・一人暮らしの人数は、2011年の国勢調査時から現在まで大幅に増加しており、50歳以上の4分の1が一人暮らしで、特に65歳以上の男性の増加が著しいという。さらに、2043年までには、65歳以上のほぼ450万人が一人暮らしになると予測されている。イギリスでは、目下、このような社会基盤の変化が、保健・医療および福祉サービスの提供方法の変化を迫る大きな要因になっている。以下では、プライマリ・ケア、セカンダリ・ケア、それぞれのレベルでの在宅ケアの取り組みについてみていく。一方、GPのサービス提供についても大枠をみておくと、GP診療所は、提供責任者との契約(一般的には、GMS契約17))に基づいてサービス提供をしている。そしてこれに基づくGPの診療業務は、大きく、①基本サービス(essential services)2. プライマリ・ケアにおける在宅ケアの取り組みの変化—往診を端緒にここでは、プライマリ・ケアのうち、GPサービス、すなわち、プライマリ・メディカル・ケアに着目していく。そこでまず、NHSにおけるGPサービスの利用について簡単に確認しておくと、市民は、利用資格(≒居住関係)を踏まえ、自らが選択する診療所へのかかりつけの登録ともいうべきNHS登録を行う。そして不調時には、まずこの登録しているGP診療所に予約を入れた上でGPの診察を受け、その後必要に応じて、GPによる治療や薬剤の処方箋の発行を受け、あるいは、更なる専門的治療=セカンダリ・ケアを必要とする場合には、病院のコンサルタント(専門医)へと紹介してもらうことになる。この時、薬局で処方箋薬を受け取る等を除き、NHS登録に基づいて医療サービスを利用する際の費用負担はない。Ⅱ. イギリスにおける在宅ケアの推進1. 在宅ケアの取り組みについて

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