健保連海外医療保障_No.134_2024年9月
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00000000000000健保連海外医療保障 No.134図1 医療についてのサービス区分経済的な問題への対処として、福祉サービス5)や所得保障といった関連施策との連携が重要な意味を持っている点が改めて意識されるようになっている。現在のイギリスの医療保障、なかんずくNHSを理解するためには、これら基本原理とその意義について、今一度確認しておく必要がある。次に、このようなNHSを中心としたイギリスの医療保障の、押さえておくべき現在のいくつかの特徴を、次のキーワードにそってみていくことにしたい。①プライマリ・ケアの重視②コミッショニング(commissioning)③地方・地域の重視④現実主義・合理主義と「効率化」イギリスの医療保障の特徴としてまず挙げられるのは、プライマリ・ケア/セカンダリ(/ターシャリ)・ケアという明確なサービス区分の存在と、「紹介」を通じたサービス利用規整という点である。一般の医療については、図1のような整理になる。このサービス区分はもともとNHS固有のものではなく、イギリスの医療制度、より正確には、イギリス独自の医師制度0に由来するものであり6)、歴史的に形成されてきたこの枠組みをNHSでそのまま利用している。また、プライマリ・ケアというサービス区分は、プライマリ・メディカル0・ケアのみを意味しているわけではなく、様々な職者がプライマリ・ケアを構成するサービスを提供している点にも注 意を要する。具体的には、総合医(General Practitioner. 以下、GP)が提供する医療一般以外に、歯科医師(Dentist)による歯科サービス7)、薬剤師(Pharmacist)による薬剤サー・GP(総合医) 〔GP Registration〕・Consultant(病院専門医) 〔Specialist Registration〕41- GP Practice(診療所)- プライマリ・ケア- Hospital(病院)ビス、検眼士・眼鏡作製技能士(Optician)等による眼科サービス8)などがあり、これら職者がプライマリ・ケアとしてそれぞれのサービスを提供している。イギリスの医療保障の特徴において、まず、このようなサービス区分の前提の上に、プライマリ・ケアのレベルでの施策の展開が重視されるようになっている点を指摘しておきたい。次に、コミッショニングという点について言及していく。現在のNHSを理解する上で、コミッショニングは極めて重要な概念であり、コミッショニングの意味内容とともに、これを行う当事者関係についても把握する必要がある。コミッショニングそれ自体は、NHSにおいて展開されてきた独特のサービス確保の方法を意味している。1990年代の、いわゆる「内部市場」9)の導入に際して、サービス購入の「契約」手法として位置づけられたものが、現在、ニーズ捕捉・計画/調達(契約)/モニタリング・評価という3つの局面に分けられる「継続的な一連のサイクル」(コミッショニング・サイクル)として動的に把握されている点がポイントとなる(図2)。また、このコミッショニングの当事者関係の理解のために、NHSの構成(要素)について整理しておくと、NHSは現在、大きく3つの要素で成り立っている。まず、(1)コミッショナー(commissioner)と言われる「提供責任者」(法律に基づき住民に対するサービス保障の責任を負う機関)であり、この提供責任者がコミッショニングを行う。これに対して、(2)プロバイダー(provider)と言われる「サービス提供者」は、コミッショニングを通じて実際のサービスを提供する事業者であり、今日様々なものが存在する。もう一つは、(3)レギュレイター(regulator)と言われる、サービス提供者を規制・監督する  (=傷病時の初期的対応・総合診療)- セカンダリ・ケア/ターシャリ・ケア  (=GPの紹介を受けて行う専門的診療)2. 医療保障の特徴

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