高齢者の在宅ケアにおいて、地域連携は古くて新しい問題である。これまでにも試行錯誤を重ねながら、様々なレベルで多種多様な地域連携の取組みが開発されてきたが、現在もなお進行中の改革である。近年では、在宅ケアをめぐる簡素化の動きが見られ、セクター間の連携による簡素化や、多種多様な地域連携の取組みの単一化が進められつつある。そこでは、年齢、病態、障害の有無にかかわらず利用者の特定のニーズに着目し、社会的な脆弱性にも配慮した在宅ケアのあり方を新たな地域連携の取組みを通して模索しているようにみえる。1健保連海外医療保障 No.134わが国と同様に、フランスでも高齢化が進展しており、高齢化に伴う課題への対応に迫られている。フランス国立統計経済研究所(INSEE)の推計1)によると、2020年に26%であった60歳以上の高齢者の割合は、2050年には33%となり2,300万人を超える。また、75歳以上の高齢者もほぼ倍増し、1,100万人(16%)に達するとされる。この間、要介護度が中度または重度の高齢者も増加し、2040年までに300万人に達すると予想されている。フランスでは、人口の高齢化の影響を想定して、住宅や交通、社会生活、市民生活、支援の面で高齢化社会に対応するために、2015年に高齢化社会への適応に関する法律(以下、ASV法という)2)を制定した。今後、人口構造の変化や平均寿命の延伸、要介護高齢者の増大が見込まれることから、この法律では、高齢者が良好な状態の下で老後を過ごすことができるように、在宅での支援を優先している。フランスにおいても、高齢者が可能な限り住み慣れた地域で、できる限り自立した尊厳ある生活を送り、人生の最後まで暮らすことができるような社会が求められている。近年の高齢者政策において、高齢者施設への入居よりも、在宅生活の維持を促進することを目指す在宅シフト(virage domiciliaire)という言葉を見かけるようになってきた。わが国と同様に、フランスでも高齢期の生活における在宅志向は高く3)、これまでにも在宅生活の維持(maintien à domicile)4)の促進が政策的にも繰り返し唱えられていた。しかし、その環境整備は期待通りには進んでおらず、現在も模索している状況にある5)。在宅シフトを促進するにあたっては、専門職人材の確保の困難、介護者支援などわが国と共通する課題が見られる一方、在宅ケアのサービス提供をめぐる連携という問題は、かねてより認識されていた。フランスにおける在宅ケアは、医療と介護の間で、その提供体制、給付、財政が細分化されており、利用者にとっては分かりにくく、煩雑な手続きが必要であることが問題となっていた。このため、在宅生活への介入に駒澤大学 教授原田 啓一郎Harada KeiichiroⅠ. はじめに特集:在宅ケアと地域連携フランスにおける在宅ケアと地域連携
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