健保連海外医療保障_No.134_2024年9月
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15健保連海外医療保障 No.134Medical Expenses Act, Algemene Wet Bijzondere Ziektekosten, AWBZ) (“Compartment1”)、②短期医療を中心にカバーする健康保険(Zvw)(“Compartment2”)、③私的医療保険(“Compartment3”)によって構成されていた(大森 2011:25)。2024年の医療費の財源は、健康保険(Zvw)642億ユーロ、強制免責控除34億ユーロ、長期療養サービス保険(Wlz)368億ユーロ、自己負担23億ユーロ、社会支援法(WMO)保護住居16億ユーロ、その他の予算(労働市場政策/カリブ海オランダを含む)8億ユーロであり、被保険者が負担する強制免責控除額と自己負担額を除くと、総医療費予算は1,034億ユーロ(Ministerie van Financiën, 財務省)である2)。本稿ではオランダの医療・介護制度を概観し、2015年の長期療養・介護サービス改革を通して、国と基礎自治体、政府と民間保険会社、医療・介護提供者と市民の各レベルの分権化を背景として、効率的かつ責任のあるケア調整が、個人の自由な選択と連帯への貢献に基づき実施される状況を検討する。短期医療保険“Compartment2”は、治療サービスを中心とした短期の医療費をカバーする 保険であり、日本でいう医療保険にあたる。 根拠法規は、2006年1月1日より施行された 健康保険法(Zvw)である。短期医療保険“Compartment2”は、2005年まで、加入者の年収、身分によって、疾病基金保険(Sickness Fund Insurance, ZFW)と公務員保険と「私的保険」の3つの制度に分立していた(大森 2006)。一定所得以下の人々を強制加入とする一方で、一定の所得を超える人々は国が制度を準備した任意保険に加入させていたが、2006年に実施された制度改革以降は、“Compartment2”を強制加入保険と位置づけ、1980年代のデッカー・プランにおいて構想された「規制された競争(Regulated Competition)」の導入を本格化した(大森 2015:21)。健康保険法(Zvw)の主な利害関係者は、 個人、健康保険会社、医療者である。三者は医療と保険の質を高める上で重要な役割を果たす。オランダの全ての居住者は、健康保険会 社を自由に選び、公的健康保険を購入し、健康保険に加入することが義務付けられる。健康 保険会社は、性別、年齢、健康状態に関係なしに、全ての人々を健康保険基本パッケージ(Comprehensive basic health insurance package, Basisverzekering)に受け入れる義務がある4)。中央政府は法定の健康保険基本パッケージを管理する。それは包括的な構造を持ち、地区看護師による在宅看護、入院、処方薬、理学療法・作業療法・言語聴覚士によるリハビリテーション、専門医・開業医による医療、18歳未満の子どもの歯科治療、栄養や食事のケア、メンタルヘルⅡ. 健康保険制度1. 2006年医療改革による 一元的な強制保険制度戦前に発展した疾病基金(Sickness funds, Ziekenfondsen)3)と民間保険会社(Private insurers, Particuliere ziektekosten-verzekeringen)の伝統的な区分が、1941年の疾病基金令(Sickness Fund Decree)で制度化され、1964年の疾病基金法(Sickness Fund Act)によってオランダ国民の一部に強制加入保険が導入された(Van Kleef 2012)。疾病基金に加入する権利のない人々は、任意で民間医療保険に加入し、その加入者の人口割合は、2005年で24%と推定される。2006年の抜本的な医療改革により、全人口を対象とする一元的な強制加入保険制度が導入された。新たな制度 は民間の健康保険会社(Healthcare insurer, Zorggeverzekeraar)によって運営され、その多くは元の疾病基金である。この制度は私法に基づくが、その法には公共の利益を守るための公的規制が含まれ、私的構造と社会的目的を組みあわせたものとなっている(Maarse, etc. 2020)。

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