健保連海外医療保障_No.133_2024年3月
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諸外国における周産期医療・生殖補助医療と公的医療保障健保連海外医療保障 No.1336間延長され、最大12週間まで法定疾病保険でカバーされることになった。医師の指示があれば、さらに長期間の治療を受けることができる(SGBⅤ24d条)28)。また、赤ちゃんの乳児検診は、1か月検診からかかりつけの小児科で行われるので、妊娠中からどの小児科医にかかるかを決めておき、妊娠中または出産後に予約をとって受診する29)。一方、母親は、産後の母体の状態を確認するために、産後6週間後を目安に、産婦人科医にて産後検診を受ける。ドイツは、ナチス政権下における人体実験やユダヤ人虐殺などの歴史的経験への反省から、生命に対して非常に慎重な対応が求められてきた。人間の尊厳の不可侵と各人の自らの生命に対する権利を規定したドイツ基本法(1条1項・2条2項)を基礎として形作られた生命倫理とそれに基づく生殖補助医療に対する厳格な規制のあり方がそれを物語っている。ヨーロッパ主要国では、1980年代以降、生殖補助医療に関する法整備が進んだ。ドイツでは、まず1989年に「養子縁組あっせんに関する法律」(Gesetz über die Vermittlung der Annahme als Kind)を改正し、「養子縁組あっせんおよび代理母あっせん禁止に関する法律」(Gesetz über die Vermittlung der Annahme als Kind und über das Verbot der Vermittlung von Ersatzmüttern (Adoptionsvermittlungsgesetz-AdVermiG))が成立した。同法により、代理懐胎のあっせん者には自由刑または罰金が科されることになった。翌1990年に「胚の保護に関する法律」(Gesetz zum Schutz von Embryonen (Embryonenschutzgesetz-ESchG)、以下「胚保護法」と表記)が制定され、胚の濫用、胚の操作および生殖補助医療技術の濫用について禁止事項を列挙し厳格な刑罰を科している30)。いずれも刑法に分類されるものとして制定されているが、それは、当時のドイツ基本法における連邦と州の競合的立法権限事項に、ヒトの胚や生殖補助医療の規制に関する立法権限が含まれておらず、当該権限は州に属するものと解されていたためである31)。そのため、連邦に立法権限がある刑法分野の法律として制定を行うことによってこの問題を回避したのである。生殖補助医療を規制する主要な法律は、1991年に施行された胚保護法であり、同法は、人工的な受精を不妊治療の場合に限定し、生殖補助医療技術および胚の濫用を回避するために制定されたものである。そのため、同法は、特定の生殖補助医療技術の濫用、特に、胚の研究利用に対して厳しく規制し、医師等の行為に対して刑罰を課している。具体的には、以下の行為を明文で禁止している。① 第三者による卵子の提供(1条1項1号)② 卵子提供者である女性自身の妊娠以外の目的での胚の作成(1条1項2号)③ 1サイクル内に4つ以上の胚を移植したり4つ以上の卵子を受精させることによる多胎妊娠(1条1項3号および4号)④ 1サイクルに移植予定の数を超える数の卵子を受精させること(意図的な余剰胚の作成・1条1項5号)⑤ 他の女性への移植または保存以外の目的での胚の作成・利用(1条1項6号)⑥ いわゆる代理母への人工授精または胚の移植(1条1項7号)⑦ ヒト胚の販売やヒト胚の保存以外の目的での譲渡・取得・使用などのヒト胚の悪用(2条)⑧ 子の性別の選択(3条)⑨ 一定の条件を満たさない着床前診断(3a条)32)⑩ 卵子を受精させる女性と精子を使用するⅢ. 生殖補助医療1. 歴史的経緯・背景2. 生殖補助医療に関する法規制〜胚保護法と医師会ガイドライン

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