健保連海外医療保障_No.133_2024年3月
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諸外国における周産期医療・生殖補助医療と公的医療保障健保連海外医療保障 No.13364Insemination、IUI)はこれ以前から行われてきており、それを含めると韓国の生殖補助医療の歴史は長い。1985年の国内最初の体外受精による出産以降も最先端で生殖補助医療の技術は発展してきた。不妊関連の診療としては、2001年6月から健康保険で適用され始めたが、それは一部の不妊診断検査に限られ、体外受精などの生殖補助医療と関連する検査および処置などは保険適用外とされていた(ファン・ナミ、ファン・ジョンへ、キム・ジウン2010:3)。一方で、少子化が社会問題化された2000年代以降は、「不妊」は「難妊」として認識され、少子化対策として不妊治療が着目されるようになった。難妊というのは、妊娠が不可能な状態というわけではなく、ただ妊娠が困難なだけで治療が可能であり、体外受精のような生殖補助施術による医療の支援を通じて初期に適切な治療に臨めば出産が可能であるとする考え方である12)。そのような不妊に悩む夫婦の場合には、妊娠と出産に対するニーズが高く不妊克服のための政策的支援への反応は高いであろうと政府は予想した。上記のような状況を背景に、政府は、少子化問題の緩和を目指し、2006年に「不妊夫婦支援事業」を導入した(表6)。同事業は、不妊を治療するための経済的負担が大きい治療費について、政府資金(健康増進基金)で支援し、出産の奨励を図るものとして導入したものである。当時、体外受精および胚移植(以下、体外受精)を含んだ生殖補助医療の治療費やそれに必要な検査、投薬、処置などは国民健康保険の適用外となっており経済的負担が大きかった。そのため政府は、一定所得階層以下の不妊夫婦に体外受精などの特定の治療費の一部を支援し、経済的負担の軽減を図り、妊娠・出産にかかる社会的・医療的障壁を除去し、不妊夫婦が子どもとともに生活を営むことができることを目指した。このように政府の体外受精に対する医療費支援が始まると、排卵誘導剤、人工授精などでも十分に妊娠することができる対象者までも体外受精を受けようとする現象が現れているとの指摘がなされた。そこで、この問題解消のために2010年からは体外受精以前の段階で妊娠を促進する人工授精についても治療費を支援する対策も設けた(ファン・ナミ、ファン・ジョンへ、キム・ジウン2010:24-5)。不妊に対する生殖補助医療に関連しては、まずは少子化を克服するために医学的な臨床領域と不妊女性の経済的・精神的困難に着目し、公費による医療費支援のための政策的アプローチが行われたといえる。不妊夫婦支援事業は不妊夫婦治療費支援事業と改称し、対象者を変更しながら継続してきたが、不妊治療を含む生殖補助医療の国民健康保険適用は強く望まれていた。たとえば、2010年に韓国保健社会研究院から出された報告書『少子化克服のための不妊夫婦支援体系の現況と政策方向』では、保険適用されていない高額になりやすい生殖補助医療の保険適用が強く望まれると指摘した(ファン・ナミ、ファン・ジョンへ、キム・ジウン2010)。実際、2015年に同研究院から出された報告書『主要先進国の不妊相談プログラム運営実態と政策課題』においては、2014年に不妊夫婦治療費支援事業で体外受精を受けた女性1,063人を対象に行ったアンケート調査の結果から、不妊治療を受けている女性のもっとも大きな負担は体外受精にかかる費用であることが明らかになった(ファン・ナミほか2015)。2014年当時は4回の体外受精の費用を支援していたものの、4回では妊娠につながることは少なく、それ以降の費用はすべて自己負担となっていたためである。少子化対策を重要な政策課題としていた政府は、上記のような状況を受けて、2017年10月、生殖補助医療を国民健康保険の適用対象とすることとした。適用となる生殖補助医療とは、妊娠を目的に事前生殖過程に人為的に介入する医療行為で、卵子と精子を採取して体外で受精させた後、生成された胚を子宮内に移植する体外(2)不妊治療の保険給付化

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