健保連海外医療保障_No.133_2024年3月
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韓国では、2000年代に入り、急激な少子高齢化が重大な社会問題として浮上し、2005年に低出産・高齢社会基本法が制定され、それ以降、積極的な少子化対策が進められてきている。そのなかで、妊娠・出産、不妊治療1)にかかわる支援などの周産期医療・生殖補助医療の公的な保障が拡充されてきている。 本稿では、韓国における周産期医療・生殖補助医療を公的に保障する仕組みのあり方を示すことを目的とする。そのために、まず韓国における周産期医療および生殖補助医療にかかわる公的保障制度の全体像を示し、次に導入背景や現在の具体的な事業内容を整理する。そして、それらの事業の利用の現状を確認し、最後に今後の韓国の周産期医療および生殖補助医療の公的な保障のあり方について検討する。53健保連海外医療保障 No.133現在、韓国の医療保障制度は、社会保険としての国民健康保険と公的扶助としての医療給付からなる。1989年7月1日に「全国民医療保険」体制が整備され、現在は国民健康保険という単一の制度にすべての国民が加入することとなっている。また、低所得貧困者に対しては、医療給付によって医療サービスが提供されている。このように、韓国では国民健康保険と医療給付によって公的に医療を保障する仕組みとなっている。また、周産期医療・生殖補助医療に関しては、それらに加え、低出産・高齢社会基本法と母子保健法が重要な役割を果たしている。以下、本章では、周産期医療と生殖補助医療を支える公的医療保険としての国民健康保険、低所得貧困者を対象とする医療給付、そして低出産・高齢社会基本法と母子保健法の概要について整理する。韓国において医療保険制度の導入についての検討は、国家再建最高会議(1961〜1963年)で医療保険対策事業計画が提示され、その後、「第1次経済開発5か年計画」(1962〜1966年)において医療保険制度試案が提出された時に始まる。しかしながら、当時の社会経済的な状況からして、医療保険の導入は政策的に検討する、という程度にとどまり現実的にその導入を推進することは難しい状況であった。そのような中、1963年2月に、500人以上の事業所に対して医療保険を当然適用するという「医療保険法」の草案が出されたが、その後の議論のなかで任意適用との結論が出され、それを受け強制適用ではない形で、1963年12月に医療保険法が制定さ国際医療福祉大学 講師松江 暁子Matsue AkikoⅠ. 韓国における周産期・生殖補助医療を公的に保障する仕組み特集:諸外国における周産期医療・生殖補助医療と公的医療保障韓国における周産期医療・生殖補助医療に対する公的保障のあり方1. 国民健康保険制度の概要(1)社会保険としての医療保険の導入経緯

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