健保連海外医療保障_No.133_2024年3月
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諸外国における周産期医療・生殖補助医療と公的医療保障健保連海外医療保障 No.1332せば、家族被保険者として、保険料の拠出なく保障の対象となる。ドイツでは、公的医療保険制度が創設される以前から、共済金庫(Unterstützungskasse)による疾病をはじめとする一定の救済が行われていたこともあり、既存の共済金庫を疾病金庫(Krankenkasse)とし、これに公的疾病保険の保険者の役割を担わせてきた。共済金庫は、元々、職種ごとに組織化し発展してきたので、疾病金庫となった後も、長らく職域別の複数の保険者が併存してきた。現在の法定疾病保険の保険者は、地域疾病金庫(Allgemeine Ortskrankenkasse:AOK)、企業疾病金庫(Betriebskrankenkasse:BKK)、同業者疾病金庫(Innungskrankenkasse:IKK)、農業者疾病金庫(Landwirtschaftlichekrankenkasse:LKK)、鉱業・鉄道・船員保険(Knappschaft-Bahn-See-ein Verbundsystem:KBS)、代替金庫(Ersatzkasse:vdek)の6つであるが、1996年に実施された加入者の疾病金庫選択権拡大により、現在では、職域による加入金庫の縛りが緩和されている。疾病金庫の選択が可能になったことにより疾病金庫の再編・統合が進み、2022年1月現在で97の疾病金庫が存在している4)。法定疾病保険の財政は、保険料収入と連邦補助によって賄われる。各被保険者の保険料額は、当該被保険者の収入に保険料率を乗じて得られる額であり、保険料率は、各疾病金庫に共通の統一保険料率が用いられている。統一保険料率は、2015年以降14.6%で固定されており、これを労使折半で負担している(傷病手当受給権のない軽減保険料率は14.0%)。各疾病金庫は、医療基金5)から配分された資金によって支出を賄うことができない場合には、追加保険料を徴収することができる。2023年11月現在の追加保険料率は、平均1.51%であり、微増傾向にある6)。一方、連邦補助は、法定疾病保険における保険になじまない給付(versicherungsfremde Leistung、子どもや配偶者のための無拠出の家族保険、出産・妊娠のための給付金など)に対して税収から投入されるもので、2017年以降、年間145億ユーロに固定されており、厳格な財政規律のもとで投入されている。しかし、コロナ禍による法定疾病保険の財政悪化に伴い、2020年に35億ユーロ、2021年に50億ユーロの追加支出がなされた7)。また、2022年には、SGBⅤ221a条に基づき、140億ユーロの追加支出を行い、2023年も20億ユーロの追加支出を予定している8)。ドイツにおける出生1,000人当たりの新生児死亡率は、1996年以降3人を下回り、2021年は2.193人と記録を年々更新している9)。周産期死亡率を低減し、妊産婦のケアを向上させるためには、妊娠中の産前ケアを受ける機会が多い方が望ましい。妊娠中に医師や助産師などの医療専門職と定期的に連絡を取ることで、女性は自分自身と子どもの健康にとって必要なサービスを適切な時期に受けることができるからである。ユニセフ・データバンクによれば、妊娠中に行われる産前ケアに少なくとも4回参加した、あるいは4回以上訪問を受けた女性(15〜49歳)の割合は99.3%(2014年)10)であり、複数回にわたる医療専門職との接触の機会が確保されている。また、同データによれば、熟練した医療従事者が立ち会う出産の割合は96.2%(2019年)11)、帝王切開による分■の割合は28.5%(2017年)12)であり、2020年の妊産婦死亡率は4%であり日本とほぼ同程度である13)。(2)法定疾病保険の財政Ⅱ. 周産期医療1. ドイツにおける周産期医療の現状2. 周産期医療と法定疾病保険―出産給付に関する議論と歴史的展開1876年に成立した共済金庫法では、従来多様な内容を含んでいた金庫制度を疾病に対処する

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