健保連海外医療保障_No.133_2024年3月
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41健保連海外医療保障 No.133は、ランスティングが継続して担うものとされた。今日のスウェーデンで、プライマリ・ケアは、一次医療を行う医療段階を表す用語で、特定の医療施設を意味するものではない(Ibid.)7)。Ⅲ. 周産期保健医療の提供体制妊娠、出産、産後にかかる医療費は、出産後に入院する際の部屋代と食事代を除き基本的に無料である。ここでは、正常分■に焦点を当て、提供されている保健医療サービスとその仕組みを明らかにする。スウェーデンでは、保健福祉庁のガイドラインに沿って、妊娠、出産、産後に関わる切れ目のない保健医療提供体制が整備されている (Socialstyrelsen 2023a)。周産期保健医療において、助産師が自律して包括的な業務を担う点が同国の特徴で、助産師外来(かつての妊婦健診センター)で、マタニティ・アセスメントが行われる。助産師の業務内容は、リプロダクティブ・ヘルスに関わるもので、妊娠中の保健医療サービス、周産期の親グループ支援、家族計画支援、子宮頸がん検診、望まない妊娠や性感染症(STI)の予防啓発、国民の健康啓発、生活習慣相談、と幅広い。助産師外来は、プライマリ・ケアとして、公立あるいは民間のクリニックが運営しており、地域のプライマリ・ケアを提供する診療センター(vårdcentral)に併設されているところもある(Intressegruppen för Mödrahälsovård inom SFOG 2016)。妊娠が判明して以降の支援のあり方を主に当事者の視点からみていこう。市販の妊娠検査薬を用いるか、助産師外来あるいはユースクリニック(13〜25歳の若者が対象)、地域診療センターで検査を受けて妊娠を確認したら、居住地域の助産師外来に連絡を取る。患者カードが一元化され、また行政のデジタル化が進んでいる同国では、全国のレギオンの連携で保健医療情報・医療機関を集約したポータルサイトとアプリ「1177」(1177.se)を運営しており、助産師外来権利条約」を国内法化したことにより、子どもに対する保健医療保障については、同条約に基づくよう規定している(Rikshandboken i barnhälsovård online)。かつてのスウェーデンでは、各地方・地域担当の医師(provincialläkare、のちのdistriktsläkare:総合診療医に相当)の管轄は国であったが、1963年にランスティング(現レギオン)へ移管された。保健福祉庁は、1968年に地域拠点病院・総合病院(公立病院、大学病院等)以外の外来診療システムの構築に向けた基本計画を策定し、地域でプライマリ・ケアを提供する「診療センター(Vårdcentral)」の構想を提示した。同年、ルンド大学との連携で国内最初の診療センターをスコーネ(南スウェーデン)のダールビィー(Dalby)に開設した(Swartling 2006)。1978年に保健福祉庁等により、「総合病院以外で提供される全ての医療」と定義づけられた外来通院型のプライマリ・ケアは、その総合性、責任性、近接性、継続性、質、安全性、連携という原則によって確立した概念となる。1970年代後半には、診療センターは人口およそ1万人につき1施設と取り決められ、大半の地域でプライマリ・ケアを担うようになっていた。診療センターでは、総合診療医、看護師、理学療法士等からなる医療チームが結成され、連携して地域医療にあたり、国民には居住地域の診療センターの利用が促された。妊婦健診と乳幼児診療もその新たなプライマリ・ケア・サービスに組み込まれていった(Ibid.)。1982年の保健・医療法(Hälso-och sjukvårdslagen:HSL)改正により、プライマリ・ケア医療機関が、国民の健康管理に責任を負うものとなり、社会省の報告書(HS 90)は、プライマリ・ケアによる健康データの収集と、社会における予防医療の役割強化を説いている。1992年のエーデル改革によりコミューンの役割が強化されたが、地域の医師の調整・供給役割2. 保健医療システムの変遷1. 妊婦の保健医療サービス

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