健保連海外医療保障_No.133_2024年3月
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39健保連海外医療保障 No.133世紀初めのスウェーデンでは、子どもを対象とする多くの慈善団体が活動しており、同事業もその一つであった。何らかの理由で母乳を与えられない1歳未満の子どもに無料でミルクを提供して、乳幼児死亡率を下げることが最大の目的とされた。やがて、同活動は協会(förening)組織となって他の地域にも広がり、一部のコミューン(基礎自治体)は助成を行った。1923年、授乳中の母親や妊婦も対象となる「乳幼児ケア(barnavård)」3)という概念が導入され、1920年代終盤、「哺乳事業」は、子どもの栄養・健康指導を行う乳幼児診療センターへ組織化された。当時の医療庁(Medicinalstyrelsen)主導で1931〜33年に実施した試験的取組みにおいて、妊娠中の予防医療として早い段階での健診が必要との見解が示された。ほぼ同じ頃に政府が設置した人口問題委員会は、予防医療としての妊産婦・乳幼児(母子)保健医療を、国の人口政策の一環とすることの重要性を指摘している。1937年、国会は予防医療としての周産期医療費は国が負担するものとの決定を下した。出産にかかるすべての費用は無償化され、広域自治体であるランスティング(Landsting:2019年にレギオンに改称)が管理運営を担うものとなった。乳幼児診療センターの対象年齢は当初1歳までであったが、現在では就学前クラス入学4)(6歳を迎える)までとなっている(Edelbalk 2023; Mattsson 2021)。母子保健医療サービスを開始した1930年代には、生まれた子どもにできるだけ良好な生育環境を提供するといった社会的な側面に重きが置かれた。妊婦健診は、妊娠初期に助産師が1回、後期に医師が1回行っていたが、助産師による家庭訪問(1回)も推奨された。子どものいる家族が衛生問題や何らかの社会的問題を抱えていないかどうかを確認し、衛生面や新生児ケアに関する保健指導も行われた。当時、助産師の役割は医師のサポートであった(Intressegruppen för Mödrahälsovård inom SFOG 2016)。1950年代になると、妊娠中の女性のケア事業の拠点となる「妊婦健診センター(Mödravårdscentral:MVC)」が全国各地域に設置された(Socialstyrelsen 2022b)。助産師の業務範囲が広げられ、妊婦健診も担うようになった。生まれてくる子どもも患者であるという視点から妊婦に提供された保健医療サービスは、当時としてはユニークなものであった(Socialstyselsen 2022a)。1975年の中絶法施行に先立ち5)、1970年代初めに避妊薬相談窓口の設置が始まる。助産師は教育を受けて避妊薬処方権が認められ、妊婦への支援とリプロダクティブ・ヘルスにおける中心的な役割を担うに至る6)。妊婦健診センターはプライマリ・ケアの一環として、保健医療サービスを提供するとともに、リスク家族の負担を軽減し、両親が子育てに積極的に関わるよう促す役目を果たすこととなった(Intressegruppen för Mödrahälsovård inom SFOG 2016)。1960年代以降、親・子育て支援についての活発な議論や関連調査が行われ、いわゆる親教育は、妊婦健診センターを通じて施すよう提案された(Socialstyrelsen 2015)。今日、妊婦健診センターでは、保健福祉庁(Socialstyrelsen)のガイドライン(Nationella riktlinjer:Graviditet, förlossning och tiden efter)に基づき、助産師が妊娠・出産・産後に関する妊婦健診やスクリーニングを行い、何らかのリスクが生じた場合、早い段階で対応するシステムが導入されている(Socialstyrelsen online)。正常分■では、産後健診も助産師が行うが、母体に健康面でのリスクがある場合、連携する医師の指示を受けて対応する。協働する医師は、妊婦健診センターか産婦人科クリニックに勤務する産科医、あるいは妊婦診療の経験を有する総合診療医である(Socialstyselsen 2022a)。妊婦健診センターは、分■取扱医療機関からは独立した医療機関で、婦人科クリニック、プライマリ・ケア、あるいは民間医療機関の組織として運営されている。同センターの多2. 助産師の役割の拡大

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