健保連海外医療保障_No.133_2024年3月
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スウェーデンでは福祉国家の礎が築かれた1930年代に母子の健康確保と福祉の促進を目指し、出産にかかる費用が無償化された。周産期医療は同国の重要な政策の一つであり、すべての国民を対象とするユニバーサルな社会保障制度の一環として整備されている。 保健医療における社会的平等・男女平等の実現に向け、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ1)の視点からも女性の健康保持・増進のための取組みに注力してきた同国では、すべての女性が包摂される妊娠期から子育て期への切れ目のない支援システムが構築されている。諸外国における予防接種について健保連海外医療保障 No.13338すべての人が基礎的な保健医療サービスを、必要なときに、負担可能な費用で享受できる状態を指す「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」は、2012年12月の国連総会において議決され、2015年9月には「持続可能な開発目標(SDGs)」のターゲットの一つとして位置づけられた(国際連合広報センター online)。スウェーデンは、UHCが世界共通の目標に設定される半世紀以上前から、それに着手してきたといえる。医療は保険ではなく税金を主な原資としており、住民として税務庁に登録し、パーソナル・ナンバーを持つすべての人を対象とする保健医療保障制度を整備している。医療費は有料であるが、自己負担の上限額が設定されている一方で、周産期の保健医療は基本的に無料で、すべての妊産婦を包摂する仕組みを構築している2)。1930年代の世界恐慌により不況に見舞われたスウェーデンでは、とりわけ子どものいる家族の経済状況が悪化し、出生率は低下の一途をたどった。その危機的な状況に対し、当時のオピニオンリーダー、ミュルダール(Myrdal)夫妻は共著『人口問題の危機』(1934年)を通じて警鐘を鳴らし、生活保護、児童手当、公的保育、学校医・歯科医に加えて、妊婦健診センターと乳幼児診療センター等の創設を提唱した(Mattson 2021)。翌1935年、政府は人口問題委員会を設置し、まずは子どもをもつことを阻む要因に対処する家族政策を導入していった。政策上の第一目標は、子どもを産み育てることにかかる経済的負担の軽減で(Ds 2001:57)、母子福祉の促進も射程に入れられた(高橋 2020)。乳幼児の保健医療(プライマリ・ケア)を担う、現行の「乳幼児診療センター(Barnavårdscentral:BVC)」設立の背景には、乳児の健康を守るため、1901年にストックホルムで始まった「哺乳(ミルク一滴)事業(mjölkdroppeverksamhet)」の存在がある。20大阪大学大学院人文学研究科 教授高橋 美恵子Takahashi MiekoⅠ. スウェーデンの周産期医療制度の変遷1. ユニバーサルな周産期医療サービスへの布石特集:諸外国における周産期医療・生殖補助医療と公的医療保障スウェーデンにおける妊娠・出産・産後を支える保健医療システム

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