ドイツでは、母性保護と出産支援に対して特別な位置付けがなされており、妊娠・出産ケアに要する基本的な費用は全て法定疾病保険によって賄われるなど、手厚い支援が行われている。他方で、生殖補助医療や妊娠中絶に対しては他の欧米諸国とは異なり、比較的厳格に規制されている。 本稿では、ドイツにおける周産期医療、生殖補助医療、妊娠中絶に関する法制度と費用負担について概観し、制度のあり方について考察する。1健保連海外医療保障 No.133ドイツの医療保険は、法定疾病保険(Gesetzliche Krankenversicherung)と民間疾病保険(Private Krankenversicherung)の大きく2つから構成されており、2007年に成立した法定疾病保険競争強化法(GKV-Wettbewerbsstärkungsgesetz)により、2009年以降、ドイツの全居住者は法定・民間いずれかの疾病保険と契約の上、加入しなければならなくなり、皆保険体制が実現している。2023年現在、7,380万人が法定疾病保険によってカバーされており(うち5,790万人が保険料負担を伴う被保険者、1,590万人が保険料負担のない被保険者(家族被保険者など)である)1)、約870万人が民間疾病保険の被保険者として、公的疾病保険に代わり保障を受けている。このように、ドイツにおける医療保険制度は、住民の約9割が加入する法定疾病保険を中心に、民間疾病保険が一部代替する形で形成されている。2021年の保険給付費は、法定疾病保険約2,634億ユーロに対し、民間疾病保険は約307億5,000万ユーロに過ぎないが2)、民間疾病保険は、法定疾病保険の代替としての役割のみならず、増加する一方の医療費の個人負担をカバーするための保険なども用意しており、基本となる医療保険を一部の住民に提供するだけでなく、追加保障プランを充実させることで、更なる加入者の獲得を目指している3)。社会法典第5編(以下、SGBⅤという)5条によれば、保険加入義務上限額(2023年は、年額66,600ユーロ)以下の所得を得ている被用者、公的年金の年金受給者および失業手当受給者、農業経営者とその家族従事者、芸術家および著述家、学生等は、法定疾病保険への加入義務があり、それ以外の者で一定の要件を満たす者については、任意加入することができる。また、上記強制被保険者のパートナーと子は、その所得額が限度額を超えないなどの要件を満た北九州市立大学 教授津田 小百合Tsuda SayuriⅠ. ドイツにおける公的医療保障制度の概要1. ドイツにおける医療保険制度特集:諸外国における周産期医療・生殖補助医療と公的医療保障ドイツにおける周産期医療および生殖補助医療と公的医療保険2. ドイツ法定疾病保険の概要(1)被保険者と保険者
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