31健保連海外医療保障 No.133ための行政手続の軽減などが提案された。③2018年7月6日には、当時のエドゥアール・フィリップ首相から生命倫理法改正の検討について委託を受けたコンセイユ・デタが報告書41)を公表した。同報告書は、生殖補助医療のすべての女性への拡大について、いかなる法原則も国際条約も要求してはおらず、政治的な選択の問題である、と指摘したほか、死後生殖の解禁や生まれた子の出自を知る権利を認めることに肯定的な一方で、自己の卵子の保存の解禁には慎重な姿勢を示し、代理懐胎の禁止は維持すべきとした。④2018年10月に公開された議会科学技術政策評価局(Office parlementaire dʼévaluation des choix scientifiques et technologiques:OPECST)の報告書42)では、卵子の保存について、保存時の年齢、動機、卵子の採取や高齢出産のリスク、採取した卵子による妊娠可能性の低さといった条件により実施を規制する必要があるとの指摘がなされている。これらの議論等を受けて、2019年7月24日に生命倫理法改正法案が閣議に提出され、政府提出法案として国民議会に送付された。同法案は2021年6月29日に議会で可決され、憲法院への付託を経て、8月2日に大統領の審署を得て成立した。2021年生命倫理法は、生殖補助医療の利用可能性をすべての女性に認めるとともに、生殖補助医療により出生した子に出自を知る権利を認めた43)。これに伴い、生殖補助医療の目的についても、①カップルの不妊治療と②子どもまたはカップルの構成員への特に重い病気の感染の防止のいずれかに限定する規定が削除され、「親になる計画に応えるためのもの」へと改められた(公衆衛生法典L.2141-1条1項)。上記の通り、現行制度では、生殖補助医療は、生殖可能な年齢にある、生きているすべての男女のカップル、女性のカップル、独身女性が利用可能である(公衆衛生法典L.2141-2条)。年齢要件については、年齢に関係する生殖補助医療上の危険および生まれる子の利益を考慮して、生物医学庁の意見を徴した後に、コンセイユ・デタの議を経たデクレにより定められる(公衆衛生法典L.2141-2条6項)。同規定を受けて定められた2021年9月28日デクレ2021-1243号1条(公衆衛生法典R.2141-38条)により、人工授精、公衆衛生法典L.2141-2条、L,2141-11条、L.2141-12条に基づき生殖補助医療のために採取、採集または保存された配偶子または生殖組織の使用、ならびにL.2141-1条に定める胚移植の実施は、女性は45歳の誕生日まで、男性は60歳の誕生日までとされている44)。なお、L.2141-11条は、2004年生命倫理法によって認められた、①医学的な処置による負担が生殖能力を損なわせる可能性があるとき、または、②生殖能力が早期に損なわれるおそれのあるときに、将来において生殖補助医療を行うことを可能とするため、自己の配偶子または生殖組織を採取、採集または保存する場合であり、L.2141-12条は、2021年生命倫理法によって認められた、それ以外の将来の生殖補助医療のために自己の配偶子または生殖組織を採取、採集または保存する場合である。自己の配偶子の採取についても年齢要件がある。L.2141-2条による場合には、卵子の採取は43歳の誕生日まで、精子の採取は60歳の誕生日まで、L.2141-11条による配偶子または生殖組織の採取・採集の場合も同様、L.2141-12条による配偶子の自己保存の場合には、卵子の採取は29歳の誕生日から37歳の誕生日まで、精子の採取は29歳の誕生日から45歳の誕生日まで、とされている(公衆衛生法典R.2141-36条、R.2141-37条)。生殖補助医療において用いられる生物学的な手法は、生物医学庁の意見を徴した後に保健担当大臣のアレテ45)で定められるリストに収載されたものに限られる。リストへの収載の手続と基準はコンセイユ・デタの議を経たデク(2)利用可能な技術3. 現行制度(1)対象者
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