健保連海外医療保障_No.133_2024年3月
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諸外国における周産期医療・生殖補助医療と公的医療保障健保連海外医療保障 No.13330フランスで生殖補助医療(assistance médicale à la procréation:AMP)とは、「体外受精、配偶子、生殖組織ならびに胚の保存、胚移植および人工授精を可能にする臨床的生物学的実践(pratiques cliniques et biologiques permettant la conception in vitro, la conservation des gamètes, des tissus germinaux et des embryons, le transfert dʼembryons et lʼinsémination artificielle)」と定義されている(公衆衛生法典L.2141-1条1項)。生殖補助医療の利用に関しては、生殖補助医療の利用可能性と、生殖補助医療を利用した場合の公的支援の有無および内容が問題となる。後述の通り、フランスでは現在、一定の法規制の下に、生殖補助医療が幅広く行われている。以下、まずその歴史的経緯を振り返った後に、現行制度を概観し、現在の実施状況を確認する。フランスにおける生殖補助医療に関する法規制の議論は、1982年にフランスで最初の体外受精児が生まれたことがきっかけとなって始まったとされる34)。1983年にミッテラン大統領が設置した国家倫理諮問委員会(CCNE)での議論等を経て、1994年に制定された生命倫理法によって生殖補助医療についての法規制が定められた35)。それによると、生殖補助医療は、一組の男女の親になりたい要望に応えるために行われるものであり、生存していて、生殖可能年齢にあり、婚姻しているか、または、少なくとも2年以上の共同生活をした証拠を提出することのできる男女のカップルに限定して利用が認められた36)。また、生殖補助医療は、医学的に診断されている不妊症の治療か、あるいは、子どもを特に重い病気の感染から免れさせることのいずれかの目的のために行われることとされた37)。その後、生命倫理法は、2004年、2011年、2021年に改正されていく。2004年生命倫理法では、生物医学庁(Agence de la biomédecine:ABM)の創設や死後生殖の禁止が定められた。2011年生命倫理法38)では、生殖補助医療の利用条件が緩和された。まず、生殖補助医療を利用できるカップルについて、事実婚のカップルの場合には2年以上の共同生活の事実を証明しなければならないとする条件(安定性条件)が撤廃された。安定性要件を欠くと「上辺だけのカップル」による脱法のおそれがあるとする反対もあったが、子どもを望む者にとって時間は貴重であり、2年間待つことは懲罰的であるとの主張が勝ったものである。また、配偶子の提供者となる要件について、改正前は出産経験のある女性に限定されていたのが、出産経験の有無にかかわらず、成人女性であれば可能となった。将来の生殖補助医療の実施のために、提供された配偶子を凍結保存することも認められた。もっとも、生殖補助医療が利用可能な者は生きている男女のカップルに限られていたため、2013年5月17日法律で同性婚を認める法改正がなされると39)、女性カップル、さらには独身女性にも生殖補助医療の利用を認めるべきではないかとの議論が生じた。当時のオランド大統領からの諮問を受け、CCNEは2017年6月15日に、女性カップルや独身女性にも利用を認めるとする意見書を出した。折しも同年の大統領選挙において、エマニュエル・マクロンが女性カップルや独身女性にも利用を認めるべきとの公約を掲げて当選したところであった。マクロン政権下では、2017年から2018年にかけて、さまざまな組織・機関により生殖補助医療の利用等に関する検討が行われた。①CCNEは2018年1月18日から4月30日まで、生命倫理全国会議(états généraux)を開催し、6月に報告書をまとめ、9月に新たな意見書を発した。生殖補助医療については基本的に前年の意見書と同じであるが、死亡した男性の保存精子を用いる死後生殖について肯定的な意見が付された。②2018年1月に公表された生物医学庁の報告書40)では、年齢制限の上限の明確化や、配偶子提供時のドナーのパートナーによる同意の廃止、胚の受入れのⅥ. 生殖補助医療(AMP)1. 定義2. 歴史的経緯33)

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