健保連海外医療保障_No.133_2024年3月
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諸外国における周産期医療・生殖補助医療と公的医療保障健保連海外医療保障 No.13324社会保険の領域にある連帯原理に移行させたもの」と評価されている13)。医療と同じく社会保険給付の対象となったことで、出産の医療化が進んでいった。もっとも、出産保険の現物給付は上記①の通り、医療保険の条件で行われたので、医療保険給付と同様に利用者負担が存在した。現在の社会保障制度の基礎は、1945年6月に公表されたラロック・プランに基づき、第二次世界大戦後に制定された一連の法令――1945年10月4日の社会保障組織に関するオルドナンス、1946年5月22日の社会保障の一般化に関する法律など――によって築かれた。戦後の社会保障制度においても、医療保険と区別された出産保険という制度枠組は維持された。ただ、出産保険の現物給付は、医療保険の規定からは切り離され、妊娠・出産・産後に関する医療費・薬剤費・入院費・医療用品費などが明示された。そして、これらについては利用者負担を要せず、100%給付とされた。また、出産保険の受給者の範囲は、被保険者および被保険者の妻のほか、医療保険の規定に準ずる被扶養者(被保険者またはその配偶者が扶養する16歳未満の子)も追加され、その範囲が拡大された。このように出産保険において医療保険よりも手厚い保障が行われた背景には、当時の保健医療の環境が悲惨極まりない状況にあったという事情があったと言われている。出産保険の発展により、妊娠・出産に係る社会保障制度は医療保険よりも充実した内容を有するに至った。戦後はまた、フランスの特徴である家族手当(allocation familiale)も発展していった。それらのうち、妊産婦に関連するものとしては、1946年8月6日法律によって創設された産前手当(allocation prénatale)と出産手当(allocation de maternité)があった。これらの手当は、「妊娠状態に関連する追加的費用の補償および将来の母親の健康管理の促進を目指すもの」で、前者は出産奨励政策の延長線上に位置づけられ、堕胎対策としての意味も有するものであったという14)。産前手当を受給するためには、妊娠届の提出と産前健診の受診15)が必要とされた。産前手当は、当初は妊娠9か月目に支給されていたが、後に各回の健診後に分割して支給(初回は2か月分、2回目は4か月分、3回目は残りの分)されることになった。手当の額は、家族手当の算定基礎の22%であった。その後、産前手当は、1985年1月4日法律によって創設された乳幼児手当(allocation pour jeune enfant:APJE)の1つとして再構成された。妊娠後5か月目から出産までの間、子ども1人につき月額160ユーロが支給される。受給のためには妊娠14週以内に妊娠届を提出し、所定の産前健診を6回受けることが必要である。また、1996年1月24日オルドナンス16)により、所得制限が付された。その後、産前手当は、2004年社会保障財政法による家族給付の再編成により、新設された乳幼児受け入れ給付(prestation dʼaccueil du jeune enfant:PAJE)の中の出産特別手当(prime à la naissance)に引き継がれた。同手当は、妊娠14週目までに妊娠届を提出した一定の所得以下の妊婦に対し、妊娠7か月目に一定額(算定基礎月額(bases mensuelles de calcul des allocations familiales:BMAF)の229.75%)を支給するものである。現物給付に関しては、PUMaの受給資格と同様、職業活動を行っている者、フランス国内に安定的かつ正規に居住している者、被保険者に扶養されている16歳未満の子は、出産保険の現物給付を受けることができる。雇用期間や保険料負担に関する要件、登録期間(2) 戦後社会保障制度の確立と出産保険の維持(3)家族手当による妊産婦の経済的支援3. 出産保険の内容(1)受給資格

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