健保連海外医療保障_No.133_2024年3月
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諸外国における周産期医療・生殖補助医療と公的医療保障健保連海外医療保障 No.13322以降、減少し続けている。コロナ禍の2021年に1.83に微増したが、2022年には1.79、2023年には1.67となり、従前よりも減少の幅が大きくなっている(表2)。それでも、わが国や他の先進諸国に比べれば、出生数、合計特殊出生率ともにフランスはなお高い水準にある。以下では、このようなフランスにおける妊娠・出産に関する社会保障制度のありようを検討していく。フランスの社会保障制度は、基本的に職業を基準として構築されてきた。現行の体制は第二次世界大戦後に基礎が築かれたものであり、伝統的に、民間被用者を対象とする一般制度、自営業者を対象とする自営業者制度、農業従事者を対象とする農業制度、特定の職域を対象とする特別制度の4つに大別されてきた。もっとも、医療保障(医療保険)制度に関しては、特定の職域の者等も一般制度に統合されて、一般制度、自営業者制度、農業制度の3つから構成されてきたが、2018年1月に自営業者社会制度(RSI)が廃止され、自営業者の医療保険は一般制度に統合された。職業基準では零れ落ちる者に対しては、1978年1月2日法律による個人保険など、一般制度への任意加入のしくみが設けられてきたが、1999年の普遍的医療給付制度(CMU)の創設により、フランス国内に安定的かつ継続的に居住していることを条件に、その他の者は一般制度に加入することとなった。さらに、現在では、2016年の普遍的医療保障給付(PUMa)の創設により、制度の如何にかかわらず、共通の医療保障給付を受けることになっている。一般制度では、被保険者のほか、被保険者に扶養される家族も被扶養者(ayants-droit)として保護の対象とされてきたが、PUMaの創設後は、被扶養者となり得るのは16歳未満の未成年者に限定され、それ以外の者は個人とし(2)貧困妊産婦の救済(1893年医療救済法)普仏戦争敗北後の第三共和政では、人口減少てPUMaの受給権者に位置づけられることとなった。社会保障制度は、職域によって若干の相違はあるが、基本的に、老齢部門(vieillesse)、医療部門(maladie)、家族部門(famille)の3部門からなり、一般制度ではこれに労災・職業病部門(accident du travail et maladies professionnels:AT-MP)が加わって4部門となる。このうち、一般制度では、医療部門は疾病・出産・障害・死亡保険を包摂し、医療保険金庫が管理・運営を担う。農業制度に加入する農業被用者も同様である(管理・運営は農業社会共済金庫(caisse de MSA)が行う)。農業制度に加入する農業経営者については、農業経営者医療・出産・障害保険(AMEXA)が対応する(同じく管理・運営は農業社会共済金庫が行う)。フランスでは、妊娠・出産に関する社会保障給付について、社会保険の一つではあるが医療保険とは区別される出産保険2)(assurance maternité)というものが存在している。以下、章を改めて、出産保険制度の展開と現行制度の内容を紹介する。妊娠・出産に関する社会保障制度は、貧困にあえぐ妊産婦の救済制度から始まり、出産奨励という社会的関心の下、戦間期に社会保険の対象となって一般化が進んだ。戦後は、家族政策の展開の下、出産保険と家族給付を中心に、母子保健対策や周産期医療体制の整備とも相まって、女性の妊娠・出産を支援する体制を構築していくことになる。Ⅱ. フランスの公的医療保障制度の概要1. 社会保障の制度体系2. 社会保障制度の部門Ⅲ. 出産保険制度の展開3)1. 救貧制度と労働者保護(1)概略

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