健保連海外医療保障_No.133_2024年3月
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諸外国における周産期医療・生殖補助医療と公的医療保障健保連海外医療保障 No.13312所麻酔下で、細いチューブを膣から子宮腔に挿入し、胚と子宮内膜を吸引する方法が用いられる。いずれも中絶処置実施可能な医療機関51)で原則的に日帰りでの処置が行われる。医学的社会的適用と犯罪学的適用による中絶の場合、その費用は疾病保険によってカバーされるが、相談適用による中絶の場合の費用は、疾病保険の対象外となる52)。ただし、妊娠中の医療費(医師による診察費や中絶前の事前検査費用等)および中絶後の合併症の治療費は疾病保険の対象となる。妊娠■藤法(Schwangerschaftskonfliktgesetz)によれば、女性が自身で中絶費用を負担しなければならない場合であって、国内に女性の居住地または現在地があり、経済的理由によりお金を用意することが期待できない時は、費用償還の請求権を持つこととなる。この場合の費用負担者は州である(同法19〜22条)。相談適用による中絶の場合でも、賃金継続支払請求権は引き続き適用されるが、中絶による労働不能期間についての疾病手当は支給されない53)。ドイツにおける周産期医療の特徴として、妊娠中は産婦人科クリニック、出産は分■施設を有する病院で行うデュアルシステムを採用していること、助産師が妊娠後早い段階から出産、産後まで一貫して担当し妊産婦に寄り添う体制を整えていること、妊娠・出産ケアの費用を現物給付として疾病保険から給付していること等が挙げられる。しかし、これらのケアの大部分を助産師が担っている体制下にあって、助産師の置かれている立場は決して高くない。重労働・低賃金であることを背景に、近年の助産師不足はかなり深刻であり、居住地域によっては、出産直前まで助産師が見つからないケースも出現してきている。SGBⅤ134a条により、疾病金庫連邦中央連合会(GKV Spitzenverband)が、助産師の専門職団体や助産師が運営する施設の連邦団体との間で、助産支援の提供に関する契約を締結することになっているが、これら契約団体の交渉力の強化が望まれる54)。周産期医療にかかる費用負担について、ドイツでは、妊産婦・新生児共に、出産費用も含め法定医療保険における現物給付として医療機関から直接医療の提供を受けることになっており、標準治療の範囲内であれば原則として自己負担はない(助産師によるケアや助産についても同様)。帝王切開・無痛分■いずれの場合も疾病保険による保険給付となる。一方、日本では、妊娠は病気ではないとの位置付けから公的医療保険の適用対象外となり、妊婦健診費用などについて原則全額自己負担となるが(高額療養費制度利用可能)、費用の一部について自治体による公費助成を行うことで負担軽減を図っている(ただし、助成の種類や額は自治体によって異なる)。出産費用については出産育児一時金として医療保険から支給されるが、令和5年4月より、少子化対策の一環として出産育児一時金が50万円まで増額されたものの(産科医療補償制度対象外の場合は48.8万円)、令和3年度の出産費用全国平均値は、53万8,263円となっており55)、数万円の負担は避けられない。さらに、妊娠・出産には医療費の負担だけでなく、マタニティ用品やベビー用品等の購入費用、産婦人科への交通費、里帰り出産をする場合には帰省に伴う交通費などを含む諸経費が嵩む。妊娠・出産を検討する年齢層の平均所得を考えるならば、決して少なくない負担となろう。しかし、妊娠・出産に伴う医療費負担をできる限り少なくするために、日本においても公的医療保険の給付対象とし、自己負担割合を引き下げれば済む、という単純な問題ではない。妊娠は病気ではないという従来からの理解の妥当性を再検討し、社会保険である公的医療保険の枠内で対応すべきリスクとして捉え直すべきか否か、ドイツで行われている2. 中絶の費用負担Ⅴ. おわりに〜今後の課題と日本への示唆1. 周産期医療をめぐる課題

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