諸外国における周産期医療・生殖補助医療と公的医療保障健保連海外医療保障 No.1338なり、当該技術の利用を監視監督する必要性や利用データの収集の必要性などが求められた。ドイツでは、1982年に大学に拠点を置く医学や生物学の作業グループが、自主的組織としてドイツ体外受精レジストリ(Deutschen IVF-Registers(以下、D.I.Rと表記))を設立してデータの収集と評価を開始した。その後、正式にドイツ産婦人科学会(Deutschen Gesellschaft für Gynäkologie und Geburtshilfe:DGGG)の機関となり、現在、ドイツ婦人科内分泌生殖医学会(Deutschen Gesellschaft für Gynäkologische Endokrinologie und Fortpflanzungsmedizin:DGGEF)、ドイツ生殖医療センター連邦連合会(Bundesverband Reproduktionsmedizinischer Zentren Deutschlands:BRZ)およびドイツ生殖医学会(Deutschen Gesellschaft für Reproduktionsmedizin:DGRM)によって運営されている。生殖補助医療を行う施設は、ドイツ医師会の生殖補助医療に関するガイドラインに基づき、D.I.Rへの登録が義務付けられている39)。D.I.Rは、毎年年間報告書を作成しており、D.I.R-Annual 2022によれば、登録医療機関は増加傾向で2022年現在140か所にのぼり40)、これらの施設で2022年に実施された体外受精は127,920サイクル、60,743人の女性が治療を受けており、女性1人あたり年1.9サイクルの治療を受けている計算になる。治療成果としての移植回数あたりの妊娠率は、新鮮胚で30.7%、凍結胚で30.6%(2022年)であり41)、凍結胚利用時の妊娠率の増加が著しい(2017年実績26.2%)。2021年の移植胚の出生率は、新鮮胚23.4%、凍結胚21.3%である42)。出生児の84.5%が1人(単児)、15.2%が双子、0.3%が三つ子であり、複数児の出産割合は、スカンジナビア・オランダ・フランスなどと比べると高い水準にあるが、単児出産率は年々増加している(2019年81.7%、2020年83.4%)43)。2021年の体外受精治療による出生数は、23,657人であり、1997年以降、合計388,716人の子どもが出生している44)。子どもを希望しているもののなかなか妊娠しない場合、まず、最初の入り口としては、家庭医に相談をし、家庭医から専門医に紹介されるのが通常であるが、女性の場合、定期健診の中で婦人科医に相談をしたり、男性の場合、泌尿器科専門医や男性病専門医が、生殖能力に関する検査を実施することもあるので、このような機会が不妊治療を始めるきっかけとなることもある。生殖医療センターや専門医の診療所では、包括的な診断が行われ、治療の選択肢が提示されることとなるが、その治療プロセスは以下のような流れで行われる。まずは、子どもができない医学的原因を探るため、遺伝性疾患や過去および現在の疾患を調査する。具体的には、女性の場合、① 感染症や真菌感染症を除外するための尿または膣分泌物の検査② 子宮、卵巣、卵管の異常を検出するための超音波スキャン③ 月経周期におけるホルモンの産生とホルモンの相互作用をチェックするホルモン検査④ 女性の生殖器官(子宮、卵巣、卵管)を正確に検査するための腹部または子宮内視鏡検査などを、男性の場合、⑤ 精巣、精巣上体、前立腺、精嚢の触診⑥ 必要に応じて、生殖器、前立腺、尿路の超音波検査⑦ 無傷の精子細胞の数とその可動性を決定するためのスペルミオグラムの作成⑧ 所見に応じてホルモン検査や遺伝子検査などを行う。詳細な検査の後、担当医と相談の上、治療手順を決定する。最初のステップとして行われるのが、周期モニタリングやホルモン治療である。(3)治療のプロセスと内容45)1)検査
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