健保連海外医療保障_No.133_2024年3月
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7健保連海外医療保障 No.133男性の同意なしに人工的に受精させること(4条1項1号)⑪ 女性の同意なしに胚を移植すること(4条1項2号)⑫ 死亡した男性の精液を使用した人工的な受精(4条1項3号)⑬ ヒト生殖細胞の遺伝情報を人為的に変更することおよびその利用(5条1項・2項)⑭ クローンの作成(6条)⑮ キメラおよびハイブリッドの作成(7条)これら明文で禁止されている行為以外の生殖補助医療を行うことは、禁止されていない以上可能であると考えられており、例えば、1条1項1号において、第三者による卵子の提供は禁止されているものの、第三者による精子の提供は禁止されていないため、ドイツ国内においてもこの方法による生殖補助医療は広く行われている。胚保護法は、上記行為を禁止するとともに、これを行った医師等に刑罰を科すもので、懲役または罰金の刑罰が規定されている33)。同法以外に生殖補助医療に関わる規定を有するものとして、臓器移植法、民法などがあるが34)、生殖補助医療を全般的に規制する法令は存在せず、胚保護法制定後の生命科学技術の著しい進展に伴い、より広範で詳細な生殖補助医療に関する法律の制定が望まれている。実務上生殖補助医療を規制するものは、連邦医師会(Bundesärztekammer)が定めている「生殖補助医療におけるヒト生殖細胞または生殖細胞組織の収集および移植に関するガイドライン」である35)。同ガイドラインは、実際の生殖補助医療を行うに際しての詳細(具体的な実施手続・方法など)について規定しており、これを雛型として、各州の医師会(Landesärztekammer)がそれぞれのガイドラインを策定している。州医師会に所属する会員医師は、当該ガイドラインに沿った処置を行わなければならない36)。以上のように、ドイツでは、生殖補助医療に関する包括的な連邦法は存在せず、医師会の強いリーダーシップにより策定されたガイドラインに基づき、医師らによる厳格な自主的規律の下で実施されている。生殖補助医療技術は、大きく「人工授精」と「体外受精」に分類され、さらに用いられる精子・卵子・胚が夫婦のものである場合と、他者から提供されたものである場合とに分けられる。「人工授精(ART)」は、夫の精子を用いる配偶者間人工授精(artificial insemination with husbandʼs semen, AIH)と夫以外の第三者の精子を用いる非配偶者間人工授精(donor insemination, DI;artificial insemination with donorʼs semen, AID)に分けられ、「体外受精」も、配偶者間体外受精と非配偶者間体外受精(この中でも、提供精子によるもの、提供卵子によるもの、提供胚によるものとに分けられる)とがある。「代理懐胎」は、不妊の妻に代わって妻以外の女性が懐胎・出産をするものであり、妻以外の女性に夫の精子を人工授精して行われる「代理母」と、子宮摘出等により妻が懐胎・出産することができない場合に、夫の精子と妻の卵子を体外で受精させた後、その胚を妻以外の女性に移植する「借り腹」がある。借り腹では、代理懐胎者と生まれてくる子どもに遺伝的つながりはない。使用する卵子については、妻・懐胎女性以外の第三者から提供される場合や、他のカップルの受精卵を譲り受ける場合もあり得るが37)、前述したように、ドイツにおいては、胚保護法により、妻の卵子を用いた人工授精・体外受精(いずれも精子は夫の場合も他人の場合もあり得る)だけが許容されていることとなる(代理懐胎は禁止)38)。体外受精技術の開発は、医師や科学者の関心を呼び起こすだけでなく、政治や社会の焦点と(1)実施可能な生殖補助医療(2)実施可能な医療施設および実施実績3. ドイツにおける生殖補助医療の実施実態

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