5健保連海外医療保障 No.132予期される場合には、連邦参議院の同意を要する法規命令によって、感染のおそれがある住民に対して予防接種の義務を課す法規命令を制定する権限を有する(同条第6項)。ただし、医療上の禁忌を理由として予防接種を受けることができない者に対しては、予防接種の義務を課すことはできない。連邦保健省がそのような法規命令を制定するまでは、州政府が同様の法規命令を制定することができる(同条第7項)。予防接種を義務付ける行政府の法規命令は、緊急の場合の最終手段とされており、これまでに制定された例はない27)。STIKOが勧奨する予防接種が行われたことを管理し、また、既に行った予防接種を重複して行わないようにするため、行われた予防接種は記録される(Impfdokumentation. 感染症防護法第22条)。予防接種を行った者(医師等)は、接種後遅滞なく、接種手帳(Impfausweis)において、または接種証明書(Impfbescheinigung)を発行して、①接種の日付、②ワクチンの名称およびロット番号、③対象となる感染症の名称、④接種を受けた者の氏名および生年月日ならびに接種を行った者の氏名および住所を記録し、⑤署名を行わなければならない。また、予防接種の記録には、①接種後に異常な副反応があった場合にとるべき行動、②健康被害があった場合の補償請求権、③補償請求の受付機関について、情報が記載される。必要な追加接種についても、接種日の提案とともに情報提供が行われる。予防接種については、記録がされるだけでなく、その確認も行われる。2015年に制定された病気予防法28)では、児童・青少年・成人の健診において、予防接種の記録の確認が行われることが定められた(社会法典第5編第25条・第26条)。また、児童が幼稚園または保育園に入園する際には、その親は、STIKOが勧奨している予防接種について医師から助言を受けたことを書面により証明することが義務付けられた(感染症防護法第34条第10a項)。予防接種に関する啓発や情報提供を適切に行うためには、国民の予防接種に対する態度、特に接種率を把握することが重要である。予防接種率を把握するために、感染症防護法では2つのルートによる情報収集が定められている29)。第一に、小学校の就学前健診において、保健所が新入生の接種手帳(Impfpass)を確認して予防接種状況を把握する。保健所は収集したデータを匿名化して集積し、州の保健省を通じてロベルト・コッホ研究所に送付する(感染症防護法第34条第11項)。ロベルト・コッホ研究所はこのデータを分析・評価するが、接種率を計算する際には、接種手帳を提示した児童の数が分母となる30)。第二に、接種率および接種効果の調査のために、公的医療保険の保険医協会(kassenärztliche Vereinigungen)は、児童・青少年・成人に対して行った予防接種のデータをロベルト・コッホ研究所に送付する(予防接種サーベイランス 第13条第5項)。この際、データは匿名化されている。このデータによって把握されるのは、保険医(開業医)において予防接種を受けた公的医療保険の加入者のデータである。民間医療保険に加入している約1割の国民のまとまったデータはない。保険医協会によるロベルト・コッホ研究所へのデータ送付は2004年から行われているが、2020年の法改正31)で感染症防護法に第13条第5項が追加され、法的根拠を得た。ロベルト・コッホ研究所は、毎年、上記2種類のデータを基に、児童の接種率と成人の接種率を『疫学報告(Epidemiologisches Bulletin)』においてそれぞれ公開している。児童の接種率を計算する際には両方のデータが使用されており、両データはそれぞれ不足する部分について補い合っているとされている32)。ロベルト・コッホ研究所のヴィーラー(Lothar H. Wieler)前所長によれば、予防接種サーベイランスによって、①接種率の推移および州別・年齢別接種率、(6)予防接種の記録およびその確認(7)予防接種率の把握
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