健保連海外医療保障_No.132_2023年9月
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注1) 民間製薬会社でワクチンを開発し、生産するようになったのは、1970年代以降のことである(イ・ジョング 2010)。諸外国における予防接種について2) 改正前の第10条(予防接種)の規定は次の通りである。「①国民はこの法のさだめる予防接種を受けなければならない、②保護者は、満14歳以下の者、精神疾患、禁治産者に予防接種を受けるよう措置しなければならない。③この法において保護者というのは、親権を行使するもの、あるいは後見人である。」3) 韓国の予防接種は、感染症予防法の一部分として扱われており、予防接種法として独立していない。そのため、予防接種の独立した固有の目標と戦略を立てて推進するうえで限界があることも指摘されている(イ・ソックほか 2013:25)。4) 韓国の地方行政区分が日本と異なっているため、若干の補足説明をしておく。「市・道」は、中央政府の管轄下に置かれている地方自治の大きな単位で、日本の法令指定都市に該当する特別市・広域市と道のことである。特別市・広域市は道から独立している。なお、「市・郡・区」は、基礎自治体で、特別市・広域市の下に置かれている区・郡、道の下に置かれている市・郡のことである。5) 日程表の通りに予防接種を受けなかった場合は、それに対応するための「未接種子どもの予防接種日程表」が提示される。「未接種子どもの予防接種日程表」は、疾病管理庁ホームページ(https://www.kdca.go.kr)で確認できる。6) 疾病管理庁ホームページ(https://www.kdca.go.kr)のデータによる。健保連海外医療保障 No.13272の信頼が低下し、予防接種率の下落をもたらすこともある。そのため、予防接種の安全性の確保とともに、予防接種後の異常反応の管理や被害に対する補償は、国家予防接種事業の実施において、欠かせない重大な課題であるといえる(イ・ジョング/チェ・ウォンソク 2008)。本文中で詳しく取り上げたように、韓国では、1994年に予防接種で死亡したケースが初めて発生し、1990年代半ばから予防接種後の異常反応の管理と補償に関する制度的な取り組みが行われるようになった。2000年代に入ってからは、専門委員会が組織され、被害に対する調査のための専担班も設置された。それとともに、異常反応を申告するシステムの開発とサービスの導入も積極的に行われ、また被害補償の範囲や水準にも改善がみられてきている。とはいえ、2020年初頭からのコロナ禍で、予防接種による異常反応と深刻な被害の発生が大きな社会問題となったことは事実である。政府は、これまでの経験を生かして、コロナ禍で「コロナ19予防接種被害国家補償システム」を構築し、新型コロナワクチン接種の異常反応と被害に対して迅速に対応することで、予防接種の安全性の確保と接種率の向上のための努力を重ねてきたが、その対応の不十分さを指摘する声も少なくなかった。正確な統計データではないが、最近のある新聞記事によると(「ハンギョレ新聞」2023年3月2日)、コロナ禍で、新型コロナワクチンに対して50万件以上の異常反応の申告があり、10万件以上の被害補償の申請があったものの、そのうち、ワクチンによる被害が認められたケースがわずか150件程度で、ほとんどが補償の対象外となっている。そのため、「コロナ19被害家族協議会」が結成され、国会では「ワクチン副作用、被害補償、国家の役割は?」(2023年3月21日)という政策討論会が開かれ、医学専門家や法学専門家また被害家族の報告と討論が行われ、疾病管理庁や保健福祉部などの政府関係者も参加し、議論に加わっていた。近ごろコロナ禍が収まりつつあるなか、ワクチン被害に関する議論が顕在化する様子がみられるようになっている。本稿では、その詳細は取り上げないこととする。というより、コロナ禍で(再)浮上した予防接種後の異常反応と被害補償の問題に対していかに対応し、予防接種の安全性と信頼を確保していくかという課題を本格的に検討するためにはもう少し時間が必要であろう。今後、それに対する韓国政府の取り組みに注目し、日本や他の国との比較でその特徴や示唆についても考えていきたい。

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