健保連海外医療保障_No.132_2023年9月
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諸外国における予防接種について健保連海外医療保障 No.1324この規定は、麻しんが再流行していることを受け、国民が医療機関を受診するあらゆる機会を捉えて予防接種の接種状況を確認し、未接種であれば予防接種を行うことができるように2020年2月の法改正で新設されたものであり19)、同年3月から施行されている。このようなやり方は、感染症に対する集団免疫を高めることが目的とされる20)。COVID-19の流行期間中は、特例として、12歳以上の者に対するCOVID-19の予防接種を歯科医師および獣医師も実施することができたが(第20b条)、この規定は2023年4月8日をもって廃止された。その他の特例として、18歳以上の者に対するインフルエンザ予防接種、および12歳以上の者に対するCOVID-19の予防接種は、薬局の薬剤師が実施することができる(第20c条)。これらの場合、当該歯科医師、獣医師および薬剤師は、医師による研修を受けている必要がある。いずれも、接種率を高めるための施策である。ドイツでは集団接種は行われず、予防接種の大部分は開業医(家庭医等)において行われている。乳幼児健診も集団ではなく個別に開業医において行われているため、乳幼児の予防接種は健診時に行われることが多い21)。保健所は、開業医では賄いきれない部分を補う形で予防接種を行っており、例えば、予防接種が必要であるが未接種の者が多い高齢者施設等において予防接種を行うことなどがある。予防接種の前にリスクの説明を行わなければならないこと、また、事前に本人の同意を得なければならないことについては、民法典の規定が適用される(第630d条および第630e条)。法律で義務付けられている予防接種またはSTIKOにより勧奨されている予防接種の費用は、公的医療保険の保険者である疾病金庫が全額を負担する(社会法典第5編第20i条。民間医療保険の加入者においては、民間医療保険が負担する)。この規定は、2007年の公的医療保険競争強化法22)によって設けられた。それまでは、疾病金庫は、その定款において、予防接種を医療給付として定める「ことができる」とされていた(旧第23条第9項)。しかし、これでは疾病金庫間に差が出ることとなり、望ましくないという認識があったため、2007年4月1日から、STIKOが勧奨する予防接種の費用は疾病金庫が負担することとされたものである。その目的として、当時の法案説明資料23)では、①疾病金庫が費用負担する予防接種を全国で統一すること、②費用負担の透明性を高めること、③予防接種の医療政策上の地位を高め、強調すること(シグナル効果)、④医師が予防接種を行うに際して、費用負担について不安を持たなくて済むようにすることの4点が挙げられていた。疾病金庫が費用を負担する予防接種については、ドイツの医療制度の共同自治・議決機関である連邦共同委員会(Gemeinsamer Bundesausschuss)24)が、「予防接種指針」25)において、その要件や種類等を定めている。特定の職業において感染リスクが高い感染症の予防接種、つまり職業上必要となる予防接種については、疾病金庫の負担ではなく、労働安全衛生法26)に基づいて事業主がその費用を負担する(労働安全衛生法第3条第3項)。COVID-19の感染拡大にみられたように、新たな感染症に突然対応しなければならない事態も想定される。感染症防護法には、そのような緊急の事態に備えた規定も用意されている。第一に、州保健省は、STIKOが勧奨しておらず、したがって疾病金庫による費用負担の対象とならない感染症の予防接種を保健所が無償で実施することを定めることができる(感染症防護法第20条第5項)。予防接種を無償とすることで接種のインセンティブを高め、感染症の拡大を阻止するという一般の利益に資するものである。第二に、連邦保健省は、新たな感染症が流行し、入院を要するほどの重症患者が出ることが(4)費用負担(5)感染症拡大への緊急対応

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