健保連海外医療保障_No.132_2023年9月
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諸外国における予防接種について健保連海外医療保障 No.132562005年には水痘が新しく定期予防接種の対象となるなど、さらなる量的な拡大がみられた。ただし、この時期まで、定期予防接種が受けられるのは、保健所に限られており、そのため、保健所へのアクセスが容易ではない人々からの不満が少なくなかった。そういった問題に対応すべく、2007年に「予防接種業務の委託に関する規定」が制定され、2009年から、民間医療機関でも定期予防接種を受けることができるようになり、国家予防接種事業が民間医療機関へと拡大したのである。そういったなかで、2010年末には、伝染病予防法から「感染症の予防および管理に関する法律」(以下、感染症予防法)へと法律の全面改正が行われた(2011年施行)3)。その背景には、これまでの伝染病予防法と「寄生虫疾患予防法」を統合し、感染症に対するより体系的な対応を図ること、感染症には「伝染病」に限らない病気が含まれているため用語変更が求められたこと、また、WHO(世界保健機関)の「国際保健規則」の変更にともない感染症の予防および管理にかかわる新しい委員会の設置が必要になったこと、感染症をめぐる環境的な状況が変わるなか、予防および治療に必要な医薬品と装備の購買のための新しいルールが必要となったことなどがあげられる(イ・ソックほか 2013;2018など)。一方、上記のように2009年から民間医療機関でも予防接種が受けられるようになり、それ以降、予防接種率が大きく向上した。ただし当初は、保健所での予防接種は無料であったのに対して、民間医療機関での予防接種は全額あるいは一部が自己負担であった。それが、接種率の向上を妨げる要因となっていた。そのことが、前年の新しい法律の施行もあり、予防接種率のさらなる向上に向けて、2012年から数回にわたるモデル事業を実施し、国家負担の段階的な拡大を経て、2014年からは民間医療機関での予防接種に関して国家がその費用を全額負担することとなった(ユン・テヨンほか 2014:4;疾病管理庁 2022:375)。この時期をもって国家予防接種事業が確立したといえる。法律の全面改正や国家予防接種事業の確立という流れとともに、2010年代に入ると、定期予防接種対象の感染症の持続的な拡大が行われた。2013年にはヘモフィルスインフルエンザ菌 b型、2014年には肺炎球菌および日本脳炎、2015年にはA型肝炎、2016年にはヒトパピローマウイルスとインフルエンザ、そして2023年にはロタウイルスなどへと拡大し、現在18種類の感染症を対象として国家予防接種事業が展開されている。なお、2018年からは、定期予防接種が「必須予防接種」へと名称変更され、現在は、必須予防接種と臨時予防接種の2類型にしたがって予防接種事業が行われている。詳細は後に示す表4を参照されたい。以上では、韓国における予防接種の歴史的展開を簡単にみてきた。以下では、国家予防接種事業を中心にその仕組みと内容、また関連事業についてみていきたい。韓国における予防接種は現在、2020年のコロナ禍で疾病管理本部から昇格した「疾病管理庁」の管理のもとで感染症予防法に依拠して行われている。疾病管理庁のホームページ(https://www.kdca.go.kr)をみると6つの項目に分けられ、現在行われている予防接種とその関連事業に関するさまざまな情報が以下のとおり紹介されている。①「予防接種を知る」と②「予防接種対象感染症」では、予防接種に関する全体的な概要、③「国家予防接種事業紹介」では、国家予防接種事業の具体的な内容、④「予防接種関連専門委員会」と⑤「安全な予防接種のために」では、予防接種の範囲と基準を決める予防接種専門委員会および予防接種後の異常反応管理と被害補償を行う予防接種被害補償専門委員4. 「感染症の予防と管理に関する法律」への全面改正と「国家予防接種事業」の確立Ⅱ. 国家予防接種事業と関連事業1. 全体的な概要

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