55健保連海外医療保障 No.132接種」(2018年から「必須予防接種」へと変更)が実施されることとなった。また、その費用は中央政府と地方政府が全額負担した。これによって、法律にもとづいた「国家予防接種事業」(NIP:National Immunization Program)が開始したといえる。法制定以降、予防接種は、定期予防接種と臨時予防接種に分けて実施された。定期予防接種は、満12歳以下の子どもに対して事前に定められた年齢と期間にしたがって行うものであり、臨時予防接種は、海外から流入した伝染病の急速な流行や特定の伝染病の発生および拡大に対して短期間で免疫力を高めるために一時的に行うものである。定期予防接種の対象をみると、法制定時に上記の7種の伝染病から始まり、その後、コレラと破傷風(1976年)、麻疹とポリオ(1983年)、B型肝炎(1995年)へと拡大した。一方、発疹チフスやパラチフスなどは、その間に定期予防接種から除外された。1997年には、定期予防接種対象の伝染病の標準指針が導入され、国家予防接種事業の体系的整備および運用が試みられるようになった(イ・ジョング/チェ・ウォンソク 2008:16)。なお、法律が制定された1954年から1998年の改正までは、14歳以下の子どもと精神疾患者などの場合、その保護者に対して予防接種を受けるようにすることを義務化し、不履行の場合には罰金を賦課していた。1998年の法改正でそれを規定する第10条2)を廃止した。その間、予防接種率が向上してきたことや予防接種による被害が問題になったこと、また「強制から自律へ」という予防接種に関する世界的な潮流を重視することになったことがその背景にあるといわれている(イ・ジョング 2000:16;イ・ソックほか 2013:24)。1954年の伝染病予防法の制定以降、2000年初頭までの国家予防接種事業の展開をみると、定期予防接種は母子保健事業の一環として、臨時予防接種は防疫対策の一環として行われてきた。担当部署に関して、予防接種全体を管轄する専門組織は存在せず、定期予防接種については保健社会部(現・保健福祉部)の母子保健課で、臨時予防接種に関しては保健社会部の防疫課で、別々に行われていた。なお、臨時予防接種を担当していた保健社会部の防疫課は、1998年に国立保健院の防疫課に移管された。2000年における麻疹の急激な流行は、予防接種に関する政府の認識を変える重要なきっかけとなった。2000〜01年に、全国的に6万人近くの麻疹患者が申告され、死亡するケースも多数発生した。調査の結果、予防接種の不十分な効果や予防接種率の低さが課題として指摘された。そこで政府は「国家麻疹退治5か年事業」を展開し、それが大きな成果をあげた(2006年の「麻疹退治宣言」)。そういったなか、感染症および予防接種に関する国家管理の重要性が認識され、2002年には、保健福祉部の組織改編が行われ、それまで母子保健事業の一環として展開されてきた定期予防接種が国立保健院へと移管された。これによって、それまで別々に行われてきた定期予防接種と臨時予防接種の業務が1つの部署に統合された。その後、2003年には、国立保健院が疾病管理本部(2020年に疾病管理庁へと昇格)へと拡大改編され、そのなかに予防接種管理課が新設された。予防接種管理課の新設は、韓国で初めて、予防接種全体を専門的に担当する部署が誕生したことであり、大きな意味をもつ。同課の新設によって、一元化したかたちで国家予防接種事業が本格的に展開されることとなったのである。また、これまでの量的拡大だけでなく、質的な発展も試みられた。たとえば、予防接種のビジョンと目標の樹立、予防接種登録管理情報システムの構築、予防接種後の異常反応の管理やそれに対する被害補償、保健所および民間医療機関に対する体系的な教育と訓練、予防接種率の向上のための必須予防接種事前案内サービスの導入、予防接種率の測定と成果の評価など多様な政策が、予防接種管理課を中心に推進されることとなったのである。3. 担当組織の整備
元のページ ../index.html#58