49健保連海外医療保障 No.132る。それゆえ、子どもの予防接種をし忘れていることにすら気付かない保護者もいるのではなかろうか。イギリスでは「NHS APP」というアプリが利用できるようになり、国民が自分の健康情報を自分で確認できるようにもなっている。アクセスできる情報は、GPの健康記録にあるもので、自身のアレルギーや薬歴、予防接種歴などである。またそのアプリからGPの予約・管理やリフィル処方箋の注文および薬局の指定、NHSがどのように自身のデータを扱うかの選択、自身のGPや医療の専門家へのオンライン相談、オンラインフォームを使ってのGPへの連絡、病院その他の予約管理も可能である。イギリスではGPの受診に際しても待機期間が生じることがあるため、こうしたアプリを通じた相談や情報へのアクセスは、手軽に医療サービスが利用できることになり、人々や患者と医療との距離を近づけるものともなりうる。GPの予約やリフィル処方箋の利用がしやすくなることで、効率的に医療サービスへのアクセスができる。日本でも自分の医療情報に自らアクセスできたり、知らせてもらえる仕組みを作ることで、自身の健康状態に責任をもつ習慣を根付かせていくことができるのではなかろうか。フリーアクセスが保障されている日本では、患者が自分の都合に合わせて利用しやすいかたちで医療機関を受診できるため、患者全体の利便性などを考慮したシステムを構築する必要がないのかもしれない。しかし、それが医療サービスを改善へと向かわせる機会を逸している可能性がある。ある医療機関で受けた診療に不満があった場合、患者はその医療機関を二度と受診しないことにして、新たな医療機関を探せばよい。これでは、最初にその患者を診療した医療機関は、患者が抱いた不満を知ることがないため、欠点を改善する機会を逃すことになる。また、どの医療機関にどのような不満が生じているかの情報を何らかの機関で集約しておくことで、提供されている医療サービスの不備などを把握しやすくなる。イギリスでは『NHS憲章』により、患者と医療従事者それぞれに果たすべき責任と権利が明確化されている。それを実現できるように、国が制度を構築する必要がある。患者が自身の健康維持に必要な情報を得やすくする体制を国が整備することで、自分の健康を管理する責任を果たしやすくする。また、医療従事者の診療や対応に不満があるということは、場合によっては自身の健康にとってマイナスの影響を及ぼすこともある。そうした不満を表明し、適切な回答を得る権利が公式に認められることで、患者と医療従事者とが対等な立場で健康を管理し、場合によっては医療制度全体の改善にもつながる可能性がある。こうした点は、今の日本に欠けている部分であろう。現在、日本でもかかりつけ医機能報告制度が議論されているが、かかりつけ医が積極的に患者に情報提供をし、信頼関係を深められる制度にすべきである。特に子どものかかりつけ医となりうる、小児かかりつけ診療料など診療点数を算定するにあたり、より具体的に提供する医療サービスを示し、果たすべき役割や責任を明確にしたかかりつけ医制度とすることが望ましい。保護者へ積極的に情報提供を行うことで、日常的な健康維持に関する知識や予防接種への理解を深めさせるなどして、保護者や患者に寄り添える「かかりつけ医」としての役割を果たせる仕組みを構築する必要がある。日本の定期予防接種の接種率は高い水準にある。しかし、それは提供される医療サービスに大きな疑問を持たず、与えられるものを受けている結果かもしれない。通常の医療サービスを受診する際にもその姿勢が当てはまるのであれば、費用対効果的に非効率な治療などが行われる可能性もある。一人一人の国民が自身の健康を自分でも管理し、自身が納得した医療サービスを受けられるようにし、医療機関や医療従事者に対して適切に意見を伝えられる体制を整えることが、患者を満足させつつ適正な水準の医療サービスの提供体制を整えることにつながる可能性がある。
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