健保連海外医療保障_No.132_2023年9月
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諸外国における予防接種について健保連海外医療保障 No.13248は、その申請内容に沿った形で当該組織に勧告や指導が行われる。前項のように、苦情申請のシステムが取られていても、医学の知識に乏しい一般人が適切に苦情を書面で説明し、申請へと結びつけることは難しい。そうした人々のため、NHSでは苦情申請をサポートする組織を設置している。それがPatient Advice and Liaison Service(=患者助言連絡サービス:以下PALS)と、NHS complaints advocacy(=NHS苦情擁護)である32)。PALSは2002年から本格運用された各病院に設置されている相談所で、NHSのスタッフによって運営されている。PALSでは苦情申請の手続きの方法や、NHSから独立した外部機関への相談の仕方といった苦情申請に関する相談のみならず、健康に関する質問や自身に必要な健康情報など、健康や医療に関する通常の相談も受け付けている。また、場合によっては相談者の懸念や提案などをNHSに報告することもある。しかし、相談者の代理として苦情の申請を行うことなどはしていない。あくまで情報提供やどのように苦情を書面にあらわせばいいのか、を助言する機関である。もう一つのNHS complaints advocacyは、2013年に導入された制度である。PALSと異なる点は、NHSから独立していることである。つまり、苦情申請の相談者に対応するスタッフはNHSや病院では勤務しておらず、申請の支援についての訓練を受けた専門家である33)。また、NHSへの苦情申請だけでなく医学的なケアに関する様々な相談も受け付けている34)。苦情申請にあたっては、何に対しての苦情なのかどのような結論を求めているかを話し合ったり、得られた回答から次に何をすべきかを相談できる。ただし、法的あるいは医学的なアドバイスはできない。しかし、この機関との相談を経て苦情申請をすると、NHS側も申請者に相談員がついていることがわかり、NHSはより適切に対応する姿勢をとることに繋がる。以上の組織の支援を受けることで、患者は自身の権利を適切に行使しやすくなる。NHSの立場からも、こうした組織のおかげで苦情の真意が明確になり、適切な対応をとりやすくなる。『NHS憲章』に掲げられているように、患者の主張を正しくくみ取りNHSの改善へと繋げるシステムを構築している。イギリスの予防接種政策は、GPや訪問看護師、SAISなど様々な組織が国民に積極的に関わりつつ、国民の意思を尊重したかたちで行われている。それでも予防接種の接種率が目標に達していないという事実はあるが、国民の意思決定を尊重した結果でもある。予防接種に対して、手紙や電話、対面といった複数の手段で十分な情報提供を行った上で、保護者が接種をしないという決定を行うのであれば、それは個々の選択の自由の結果であろう。予防接種への理解を深めてもらい、納得した上で接種してもらう環境づくりを行う意識は、『NHS憲章』に掲げられた権利を尊重していると考えられる。イギリスではすべての国民がGPの診療所を登録することにより、個々の患者情報を集約することができる。そのため国民一人一人の健康状態や病歴、予防接種歴といった情報もまとめて管理しやすくなっている。定期予防接種を受けていない者がいた場合は、その情報を元にGPからその患者にアプローチをすることも可能である。現在の日本では、予防接種歴の情報は母子手帳に頼っている傾向がある。小児科や保健所などで子どもの総合的な健康情報を管理していないため、母子手帳を無くした場合、予防接種の記録などの健康情報を失ってしまうこともありうる。また、患者側からの問い合わせがない限り、予防接種に関する情報を提供することもない。接種の時期が近くなると案内や連絡がくることはなく、保護者に接種の管理が任されてい(2)苦情申請をサポートする2つの組織Ⅳ. まとめおよび示唆

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