47健保連海外医療保障 No.132勢も、今の日本にはない点ではないであろうか。しかし、ここでは患者にも果たすべき責任があることが示されており、それを果たせていない場合、患者は結果として生じる事態にも責任を持つこととなる。医療サービス提供者がやるべきことと、患者や国民が果たすべきことを具体的に明らかにすることで、患者にとって何が適切なサービスで何がそうでないのかの判断がつきやすくなる。それにより患者や国民は、「適切なサービスが受けられていない」とはどのような状態を指すのか、理解できるようになる。そして「適切でないと考えられる行為」がなされた場合、患者や家族がNHSに対して苦情申し立てやフィードバックが行いやすくなる。では、患者や家族は具体的にどのようにNHSに苦情を申し立てていくのか、次項でより詳しく説明する。NHSでは、患者が適切な医療サービスを受けられていないと判断したり、不満を感じたりした場合には、NHSに対して苦情を申し立てることを権利として認めている。逆に、良かった点、満足した経験についても知らせるよう求めている。この点は『患者憲章』にも明記されており、NHSもまたそうした苦情やフィードバックを「改善の機会」として、歓迎する姿勢を明らかにしている。これは一般的な医療サービスのみならず、公衆衛生サービスに位置づけられている予防接種にも適用され、不満を抱いた際には苦情の申し立てを行うことが可能である。NHSが提供するサービスに不満があった際に、人々は苦情を申し立てることができるが、その手段としては2段階の方法がある。1段階目は、自身がサービスを受けたGPや一般医・病院などの医療機関もしくは、それらの機関を統括する組織であるNHSイングランドや各地域のIntegrated Care Boards (=統合的ケア委員会:以下ICBs)に直接申し立てる方法である。一般的には、NHSイングランドはGPや歯科などの一次医療を監督し、ICBsは病院やコミュニティサービスといった二次医療を監督している30)。この苦情の申請は、くむべき特殊な事情がないかぎり、苦情が生じるきっかけとなる出来事が起きてから12か月以内に行わなくてはならない。苦情の申請は、それぞれの医療機関で案内されている手続きに従って行う必要がある。多くの場合、医療機関内で受け付けてもらうか、インターネット上にそのフォームが掲載されており、それに沿って行われる。苦情は医療機関か医療機関を統括している組織のいずれかにしか申請できない。ただし、苦情を受理した機関は、苦情の内容をふまえ関連する機関と連携を取りながらその処理にあたることになるため、結果として関連する複数の機関が対応することとなる。よって、1か所に申請すれば対応してもらえる体制となっている。NHSの組織は非常に複雑であるため、患者側が難しく考えず申請できるよう配慮されていて、患者の権利を行使しやすくする姿勢がうかがえる。この申請を受け付けた機関は、3営業日以内に申請者に対して協議を行う知らせをしなければならない。ただし、その後の回答までの期限は設けられていない。その苦情について調査が行われた場合、文書で回答を受け取ることができる。回答には調査結果や、申請の内容が適切なものであった場合は謝罪や、どのような改善策が取られたかが示される。もし、申請者がこの回答に納得がいかなかった場合、2段階目の申請を行うことが可能となる。それはParliamentary and Health Service Ombudsman(=議会および医療サービスオンブズマン:以下PHSO)への苦情申請である31)。PHSOはNHSに限らず、さまざまな政府機関の部局への苦情申請を受け付けている独立した調査機関である。PHSOに申請が行われると、NHSイングランドは調査を行う法的な義務を負う。PHSOの決定はその申請への最終決定となり、申請された内容が適切と判断された場合(1)2段階の苦情申請方法2. NHSへの苦情申し立て
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