諸外国における予防接種について健保連海外医療保障 No.1322を伴う感染症対策が行われる。ただし、「国民一般の健康(=公共の福祉)」というような表現がなされても、そこで個々人の健康が■ろにされることはない。感染症防護法は連邦の法律であるが、多くの規定は州により実施される。予防接種に関しては、州の保健省のほか、市町村の保健所が大きな役割を果たしている。他方で、予防接種の制度において連邦の機関が関与することもある。予防接種に関連する連邦の主要な機関として、連邦保健省下のロベルト・コッホ研究所(Robert Koch Institut. ベルリンに所在)とパウル・エーリヒ研究所(Paul-Ehrlich-Institut. フランクフルトに所在)がある。ロベルト・コッホ研究所は、感染症対策を所管する5)。同研究所は、1891年に「プロイセン王国感染症研究所」として設置され、初代(1891〜1904年)の所長が、結核菌やコレラ菌等を発見したロベルト・コッホ(1843〜1910年)であった。同研究所は、1912年以降、「ロベルト・コッホ」の名を冠している。ロベルト・コッホ研究所は1952年に連邦保健省の一部となったが、1993年の薬害エイズ事件を契機として連邦保健省の改革が行われ、1994年に同省から独立した地位を得た6)。研究所には、約1,500人の職員が従事している7)。パウル・エーリヒ研究所は、血清、ワクチン、血液製剤等を所管し、医薬品の安全性の監視を行っている。1896年にベルリンに創設された血清研究所を起源とし、初代所長が細菌学者・生化学者のパウル・エーリヒ(1854〜1915年)であった。同研究所は戦後の1949年にフランクフルトにおいて再建され、1972年の法律8)により、連邦の機関「連邦血清・ワクチン庁(Bundesamt für Sera und Impfstoffe)」となった。その後、2009年の法改正9)により、「連邦ワクチン・生物学的製剤研究所(Bundesinstitut für Impfstoffe und biomedizinische Arzneimittel)」(正式名称)と改称されて現在に至る10)。研究所には、約900人の職員が従事している11)。感染症防護法において予防接種(Schutzimpfung)は、「感染症からの保護を目的としたワクチン(Impfstoff)の投与」と定義され(第2条第9号)、その制度は、同法の「第4章 感染症の予防(第16条〜第23a条)」に規定されている。特に「第20条 予防接種(後略)」が主要な条項である。以下では、第4章の規定を中心に、関連する他法の規定も交えながら、予防接種に係る法的枠組みを紹介する。予防接種においては、体内にワクチンが投与され、抗体が産生される。このように体にとっての異物を投与することは、基本権(身体の不可侵性)の侵害となる。そのため、予防接種には本人の同意を要する12)。同意を得るためには、予防接種に関して適切な情報提供を行うことが必要となる。ドイツにおいて予防接種は原則任意であることからも、情報提供は重要とされ、第20条の冒頭に、情報提供に関する規定が置かれている(第20条第1項)。第1項では、連邦保健省下の連邦健康啓発センター(Bundeszentrale für gesundheitliche Aufklärung)13)、州の保健省、市町村の保健所等が予防接種の意義について、対象となる住民に情報提供を行うこととされている。適切な情報提供を行うことによって、住民の予防接種に対する不安を取り除き、接種率を高め、ひいては集団免疫を高めることが期待されている14)。また、情報提供に際しては、未接種率を考慮に入れ、未接種者の接種率が上がるような措置をとることが重要とされている。ドイツにおける標準的な予防接種は、公的に勧奨されたものである。勧奨は、①ロベルト・コッホ研究所の常設予防接種委員会(Ständige Impfkommission: STIKO)、②各州の保健省(die (2)予防接種に関する規定を実施する機関(1)啓発・情報提供(2)予防接種の勧奨2. 予防接種に係る法的枠組み
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