45健保連海外医療保障 No.132る民間機関までもが、法に従ってこれらをよくくみ取ることが求められている。このようにNHSで守られる基本原則をまとめる形で、『NHS憲章』は2009年1月に公表された。この憲章は10年ごとに人々や患者、NHSスタッフなど関係者が関わって大きく更新される。また同時に出される『NHS憲章ハンドブック』は、3年ごとに権利・約束・義務・責任などが、社会的背景を考慮して更新される。ここでは2021年に更新された『NHS憲章』に基づいて主な内容を紹介する28)。らず医療ニーズに基づいたものとする③ NHSは最高水準の卓越性とプロ意識を目指す④ NHSが行う全てのことの中心に患者がある⑤ NHSは組織間の境界を越えて活動をする⑥ NHSは納税者が納めたお金に対し、最高の価値を提供することを約束する⑦ NHSは提供するサービスについて、国民やコミュニティに対し説明責任を負う①と②はNHSの基本原則であり、設立以来変わることのないものである。残りの5つの原則は、医療サービスを提供するというだけにとどまらない、NHSの目指すべきもの(③)、NHSが行うべきこと(⑤⑥⑦)や、患者に対する向き合い方(④⑦)が示されている。これらを公式に掲げることにより、NHSは患者が中心の制度であることを国民も理解でき、それに沿った行動を起こしやすくなる。そしてNHSも患者に対して真■に向き合う体制を整えることにつながる。これは後述する患者の権利にも関連する。1)7つの原則『NHS憲章』で示されている原則は以下の7つである。① すべての人に包括的なサービスを提供する② NHSによる医療サービスは支払い能力によ2)NHSの価値観『NHS憲章』で示されている価値観は、NHSに関わるすべての人々・組織等で共有した目標を達成するべく、協力する基盤を構築することになる。NHSが優先することは、患者やその家族、コミュニティのニーズを満たすことである。そのためには組織の境界を越えて協力をすることが必要となる。コミュニティをより健康に導くため、NHSのスタッフだけでなく患者などすべての人々に果たすべき役割があると捉えているのである。患者や家族、スタッフといった人々からのフィードバックを積極的に受け入れ、サービス改善に努める体制がとられている。また、サービスを提供するにあたり、ケアの中心に「思いやり」を据え、人々の不安や苦痛に対して人間性と優しさをもって臨み、できることはどのような小さなことでも行うことを明記している。スタッフは、言われる前に行動できるよう気配りをするという考えを基に、コミュニティ全体の利益を最大化すべく医療資源を活用することに努めることが定められている。医療資源を効率的に用い、コミュニティ全体の健康向上を目指し、医療サービスを必要とする人々に対して、適切なサービス提供をすることは当然であろう。しかし、患者や国民にも果たすべき役割を求め、患者自身にもNHSに対してフィードバックを行うことが奨励されていることからも分かるように、患者は単なるサービスの受け手ではなく、NHSの担い手の一人であるとみなされている。苦言も多く含まれるであろうフィードバックを積極的に受け入れ、さらなるサービスの向上を目指す体制および意識が、国民に浸透するよう明言することで、国民全体でNHSを支え、時代に合わせて社会やニーズに適合した形にすることに繋がっている。次で説明する患者に認められている権利で、それは一層明らかになる。『NHS憲章』は、NHSが国民に約束するサービスや果たすべき責任およびスタッフに認めら3)NHSが約束する患者や国民の権利および責任
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