43健保連海外医療保障 No.132る被害に共感しつつも、当初は補償に否定的であった。しかしながら、予防接種率の低下により百日咳の流行が起きる懸念が明らかになったため、予防接種の結果、重度の障害を負った者を対象に一時金を支給する制度を策定した。当時は予防接種を受け「障害を負ったこと」への給付という、障害者政策の側面が大きかった19)。そのため下記にあるように、一時金の給付条件には一定基準の障害認定が必要となる仕組みとなっている。政府が予防接種によって生じた不利益に対して経済的補償をするということは、その不利益の一端を政府が負うことで、国民が抱く恐怖心を抑える役割を果たすといえる。VDPSは16歳以上であれば自身で申請が可能となる。代理人が申請する場合には以下の条件を満たす必要がある。・16歳以下の申請(原則保護者が行う)・法定代理人である・ 本人が亡くなっており、財産を管理する立場にある者また本人であれ代理人であれ、申請を行うにあたっては以下の条件を満たさなければならない。・ VDPSがリストアップしている予防接種を受けたことによる被害である・ 予防接種によって、問題となる障害が引き起こされたことを確率的に証明する・ 予防接種によって、60%以上の障害があると認定されること。これは労働災害による障害給付の基準に従って認定される3つ目の条件である「60%以上の障害」の認定は、医療の専門家たちによって審査される。これは労災によって生じた障害認定と同様の手法で行われており、障害の度合いだけでなく、各人の状況なども加味して判断される20)。そのため、「このレベルの障害であれば支給される」という明確な基準ではなく、ケースバイケースの判断となる。子どもの場合は2歳に達してから申請ができ、成人が申請する場合は予防接種から6年、もしくは21歳の誕生日以前(死亡した場合は21歳に達した日)のどちらか遅い方までという期限がある。この申請の処理には最低6か月かかるとされており、COVID-19の場合は更なる時間を要する可能性があることが明記された21)。しかし、近年申請の処理速度を速めるべく、それまで4チームだった体制を20倍の80チームへと拡大した。それにより申請処理のスピードアップを図っている。また、それぞれの申請者に対して、ケースワーカーが配置されている。ケースワーカーが申請の進■状況などを申請者へ定期的に知らせ、決定が下された際には、その内容を理解できるように補助する役割を果たしている22)。イギリスの定期予防接種は義務ではなく、任意で行われることはすでに述べた。NHSでも個々人の意思を尊重しつつ、国民に集団免疫を獲得してもらうべく、予防接種の安全性を周知し、できるだけ多くの人に接種をしてもらうためのアプローチを行っている。こうした取り組みの基礎には、90年代に制定された『患者憲章』の影響があると考えられる。現在は、それを発展させ『NHS憲章(NHS Constitution)』となっている。そこでは、医療従事者と共に患者や国民の権利や責任が明記され、ベヴァリッジ報告でも触れられていた「国民が果たすべき義務」が、現代的かつ具体的に述べられている。これにより医療従事者、国民、患者の行動規範が明確になり、それぞれの役割が分かる。本章ではまず『NHS憲章』を紹介する。そこからNHSが国民の意思を尊重しつつ、提供するサービスの重要性を理解してもらうべく動き、国民と向き合う姿勢の礎となる部分を確認する。その上で、患者に認められている医療機関への「苦情申請」・「フィードバック」といった、日本では公式には認められていない患者のⅢ. NHSと国民が果たす責任と役割、患者の権利
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