諸外国における予防接種について健保連海外医療保障 No.13242表2 義務教育期定期予防接種の接種率(イングランド)COVID-19により、学校が閉鎖された影響を受けている。そのため、2019年〜2020年および2020〜2021年は、それまでよりも接種率が下がっている。三種混合の2021〜2022年の接種率が前年よりも低下したのは、それまで接種機会を逸した者たちのキャッチアップ接種があり、対象者が拡大したためといわれている16)。HPVの予防接種は2019年9月から男子も接種対象が拡大した(ただし、表2の数値はすべて13歳の女子の接種率である)。HPVの目標接種率は90%と設定されているが、その目標には達していない。2019〜2020年の12歳児の接種率と比較すると、女子は59.2%に対し男子は54.4%、2020〜2021年では女子が76.7%で男子は71.0%と、男子はやや女子よりも劣るものの、普及していることがうかがえる17)。成人が接種対象となっている、帯状疱疹の予防接種の接種率は目標が60%に対し、71歳時点では47.9%だが、76歳時点では76.8%と目標を達成している。2004年度に接種が始まった肺炎球菌は目標接種率が75%に対し、2004年度当初は70.4%だった接種率が2021年3月には83.0%と目標を達成する水準に至った18)。イギリスでは予防接種を受けるか否かは任意であるため、非医学的な理由(宗教、思想信条などの理由)で接種しないこと自体は問題視されていない。それ以上に、接種の義務化によって予防接種に賛成する者と反対する者との対立を招くことや、人々の自主性や自由を制限することを問題視している。しかしながら、目標接HPV83.8%83.9%64.7%60.6%2017~2018年2018〜2019年2019〜2020年2020〜2021年2021〜2022年出所: UKHSA(2022)p.11およびElizabeth Rough(2022)pp.28~29より筆者作成骨髄炎菌ACWY86.2%88.0%58.3%76.5%三種混合85.5%87.6%57.6%76.4%69.0%種率を目指して、Ⅱ-1-(2)で述べた様々な形で接種の勧奨が行われている。また、予防接種を打つことでごくまれに生じる健康上の被害に備え、国民に対する経済的な補償も制度化されている。イギリスで用いられている予防接種のワクチンは、厳格な臨床試験を行い、Medicines and Healthcare products Regulatory Agency(=医薬品および医療機器監督機関)の厳しい安全性・有効性・質の基準に適合したものが用いられている。しかしながら、他の国々と同様、非常にまれではあるが、重い障害を生じる場合もある。イギリスでもそうした予防接種による健康被害に対する施策、Vaccine Damage Payment Scheme(=ワクチン被害支払い制度:以下VDPS)がある。2021年11月よりVDPSは、Department for Work and Pensions(=雇用年金省:以下DWP)からNHS Business Services Authority(=NHSビジネスサービス機関:以下NHSBSA)に管轄が移った。現在手続き中のワクチン被害の申請は、自動的に引き継がれる。その際NHSBSAは、現在の申請者たちに直接連絡を取りさらなる情報提供を行い、質問や懸念があった際の連絡先も伝えることになっている。このVDPSはVaccine Damage Payments Act 1979(=1979年ワクチン被害支払い法)の定める範囲において、予防接種によって重度の障害を負った人への生活支援に必要な経済的負担を軽減するために、一時金が支給される制度である。ワクチン被害の申請により、一時金の支払いが認められた場合は、12,000ポンド(非課税)が支給される。この一時金は損害賠償ではないため、ワクチン被害者はこれを受け取っても裁判を通じて損害賠償を請求する権利は有している。Vaccine Damage Payments Act 1979は、百日咳のワクチンに対する安全性が疑われた際に制定された法律である。政府は予防接種によ(2)予防接種に起因する健康被害への対応
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