健保連海外医療保障_No.132_2023年9月
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諸外国における予防接種について健保連海外医療保障 No.132329%である(Ministère de la Santé et de la Prévention 2022:20)。投与されたワクチンの種類は、年によって多少の変化はあるものの、最も接種数が多いのはジフテリア・破傷風・ポリオ・百日咳の4種混合ワクチンであり、2011年から2018年までの平均で全体の30%を占める。つづいてB型肝炎ワクチンが同12.2%、ジフテリア・破傷風・ポリオの3種混合ワクチンが同11.9%、麻疹・おたふくかぜ・風疹の混合ワクチンが同11.7%となっている(Ministère de la Santé et de la Prévention 2022:21)。なお、予防接種センターでは、利用者に対する診察とワクチンの接種が行われるが、前者(診察)のみのケースも少なくない33)。予防接種センターは、接種機会の提供のみならず、予防接種やワクチンに関する相談や情報提供の役割も担っていると考えられる。このように予防接種センターは、さまざまな状況にある人々に対して予防接種へのアクセスを保障する役割を担っているといえる。本稿では、フランスにおける予防接種の制度的枠組みと実施体制について検討し、政策の現状や課題を明らかにすることができた。最後に、フランスの予防接種のあり方について、「市民」、「医療保険」および「医療専門職」との関係に着目して考察する。まずは、予防接種と市民との関係について考えてみたい。フランスでは、予防接種に消極的な一部の人々から表出されるワクチンに対する不信や懸念が予防接種政策の足枷になっており、これを払拭し、信頼を取り戻すことが重要な政策課題と認識されていた。状況改善のための方法の一つは、正しく分かりやすい情報の発信である。毎年公表される「予防接種スケジュール」は、市民にとって確かで信頼できる情報源になっていると考えられ、予防接種への信頼を築いていくための重要な政策手段であるといえる。また、近年の予防接種義務の拡大という政策選択によって、予防接種の必要性が明白に市民に伝わるようになったと考えられるが、あわせて予防接種の強制力が高まった。これによって予防接種率は向上しているが、市民の自由や選択は一定の制約を受けている。実際には、接種義務が適切に履行されない場合であっても大きな不利益が生じないような配慮(学校や託児所への暫定的な受け入れ)がなされるとともに、接種が実質的に確保されるよう誘導される仕組み(受け入れから3か月以内に接種)がとられている。予防接種の緩やかな強制といえるかもしれない。どのように予防接種の義務を課し、どのように実効性を確保していくのかは日本においても重要な検討課題であると考えられるが、フランスの政策選択は予防接種を推進していくための一つの方向性を示している。次に、予防接種と医療保険との関係について考えたい。大部分の予防接種が医療保険の給付として行われることは、日本と比較した場合のフランスの重要な特徴である。これによって被保険者は、大きな経済的負担を強いられることなく予防接種を受けることができる。このことは、予防接種政策を推進していく上でのフランスの強みであると考えられる。また、予防接種は給付の一つであることから、保険者は被保険者に対して予防接種の説明や情報提供、さらには接種の促しを行う立場にある。実際にフランスの保険者のウェブサイト等では、予防接種の種類や対象者、接種時期、償還率等が分かりやすく紹介され、接種が促されている。くわえて保険者は、診療報酬制度を通じて、かかりつけ医等による予防接種を報酬面から促す役割も担っている。つまり保険者は、被保険者と医療提供者に予防接種を促すことのできる重要な立ち位置にある。予防接種制度に医療保険がかかわることの最大のメリットはこの点にあるのではないだろうか。最後は、予防接種と医療専門職との関係についてである。従来、ワクチンの処方と投与はもっぱら開業医によって担われてきたが、予防接種に至る経路の見直しが進められるなかで、フラⅤ. 考察

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