31健保連海外医療保障 No.132予防接種センターでは、予防接種スケジュールに示された「義務」および「推奨」の予防接種を無料で受けることができる。フランス全土に350か所以上の予防接種センターが設置されている27)。予防接種センターに勤務するのは、医師、看護師、助手(secrétaire)、ソーシャルワーカー等である。予防接種センターの制度的な位置づけは、予防接種をめぐる国の政策に応じて時代によって異なっている。1980年代からの地方分権の推進を背景として、従来の予防接種センターの活動は地方自治体(コミューンの保健衛生課あるいは県議会)により担われていた。この状況は、2004年に制定された公衆衛生政策に関する法律によって変化した。同法によって予防接種政策における国の役割が強化され、もっぱら県議会によって担われていた予防接種活動が中央集権的に行われることとなった。これにより、半数以上の県議会は予防接種の権限を放棄したが28)、一方で、県が予防接種に関する活動を継続できる道も残された29)。このような経緯により、今日の予防接種センターには、国との関係が異なる二つのタイプが存在する。一つ目は、国の保健医療政策のもと各地域圏を管轄する地域圏保健庁によって運営資格が付与される予防接種センターである。資格付与の対象は非営利組織に限られる。このタイプの予防接種センターは全体の約4割を占める30)。資格付与型の予防接種センターには地域圏保健庁の地域圏介入基金(fonds dʼintervention régional)から財源が供給され、その総額は2018年現在で約1,825万ユーロとなっている(Ministère de la Santé et de la Prévention 2022:24)。二つ目は、予防接種政策における地方自治体の役割を引き継ぐ予防接種センターである。これは、予防接種の権限を維持することを望む県が国(実際には当該地域を管轄する地域圏保健庁)と協約を締結し、県議会によって運営される予防接種センターである。この協約による予防接種センターは約6割を占める31)。このタイプの予防接種センターには国の地方分権一般交付金(dotation générale de décentralisation)により財源が供給される。その規模は2018年現在、2,480万ユーロにのぼる(Ministère de la Santé et de la Prévention 2022:24)。予防接種センターの運営に要する費用は、基本的には公的な財源によって賄われてきたが、2016年からは医療保険による財源も投入されている。2014年に制定された2015年社会保障財政法32)により、予防接種センターで行われる予防接種のうち、医療保険の被保険者あるいは被扶養者に対して実施される予防接種に関しては、それらの者が加入する医療保険によって費用が負担されることとなった。予防接種センターは、毎年、所在地域を管轄する地域圏保健庁に活動成果報告書を提出しなければならないこととなっている。この報告書によって国が予防接種センターの活動を経年的に把握することが可能となっている。2009年から2018年の活動成果報告書の総括資料によると、予防接種センターの支出のうち、最も大きな割合を占めるのは人件費であり、2018年の報告データによると平均で59%が人件費に充てられている。つづいてワクチンの入手に要する費用が26%となっている(Ministère de la Santé et de la Prévention 2022:23)。予防接種センターで予防接種を受けた者の総数は2018年で24万5,003人である。平均すると一つのセンターで1,494人の予防接種を行ったことになる(Ministère de la Santé et de la Prévention 2022:18)。予防接種センターで予防接種を受けた者の年齢は多様であるが、近年、0から2歳の予防接種が増加している。2018年の報告データによると、予防接種を受けた者の年齢は0〜2歳が16%、2歳超〜7歳未満が6%、7歳〜16歳未満が17%、16歳〜26歳未満が19%、26歳〜65歳未満が33%、65歳以上が(2)予防接種の実施状況2. 予防接種センターにおける予防接種(1)予防接種センターの概要
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